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2018/7 Vol.121

【表紙の絵】
みんな健康マシン
袴田 怜知 くん(当時8歳)

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機械屋の数学

第6回 演算子の固有値問題とフーリエ級数展開 Part 3

6. 弦の振動と膜の振動

前号まで扱ってきたばね・質点系の連成振動とその連続系としての波動方程式は,質点の変位方向に波が伝わる縦波に対応する。一方,ギターやバイオリンの弦,太鼓の膜などの振動は,変位が波の伝播する方向と直交しており波の伝播の形態は異なるが,この場合にも変位が小さいときには,線形の波動方程式で振動の伝播を記述することができる。(詳細は,文献(3)などを参照)本稿では,太鼓の膜のような円形膜の振動の問題を扱い,1次元の波動方程式で記述される弦の振動との違いについて説明する。

振動する膜の運動は,2次元の波動方程式,

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \left( \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 u}{\partial y^2} \right)\] (59)

で与えられる。今,円形の枠で固定された円形膜の振動の問題を考える。円形膜の場合には,式(59)を$x = r\cos \theta$,$y = r\sin \theta$の座標変換により

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \left( \frac{\partial^2 u}{\partial r^2} + \frac{1}{r} \frac{\partial u}{\partial r} + \frac{1}{r^2} \frac{\partial^2 u}{\partial \theta^2} \right)\] (60)

とし,$(r,\theta)$座標系で表記すると,境界条件を与えやすくなる。式(60)を,$u(t,r,\theta)$($0 \le r \le a$)に対して,

\[\text{境界条件:} u(t,a,\theta) = 0\] (61)
\[\text{初期条件:} u(0,r,\theta) = f(r), \quad \frac{\partial u(0,r,\theta)}{\partial t} = g(r)\] (62)

のもとで解くことを考える。

ここでは,よく使われる変数分離による解法ではなく,本連載で強調している演算子の固有値問題として定式化し,解を求める方法を紹介する。1次元の波動方程式を解いたときにならい,式(60)より,はじめに,演算子$A \equiv \dfrac{\partial^2}{\partial \theta^2}$に対する固有値問題を考え,固有関数を基底として解を表現していく。固有値を$\lambda_n$,固有関数を$v_n$とすると,

\[A\left\{ v_n \right\} = \lambda_n v_n \quad ( \frac{\partial^2 v_n}{\partial \theta^2} = \lambda _n v_n),\quad (0 \le \theta \le 2\pi)\] (63)
\[\therefore \quad v_n(\theta) = \beta_{c\;n} \cos \sqrt{-\lambda_n} \theta + \beta_{s\;n} \sin \sqrt{-\lambda_n} \theta\] (64)

境界条件は,$\theta$方向に周期的になっているので,

\[v_n(0) = v_n (2\pi)\]

したがって,$2\pi \sqrt{-\lambda_n} = 2\pi n,\ (n = 0,1,2,3 \cdots)$

\[\therefore \quad \lambda_n = -n^2\] (65)
\[\therefore \quad u(t,r,\theta) = \sum_{n=0}^\infty \left( \beta_{c\;n}(t,r)\cos n \theta + \beta_{s\;n}(t,r) \sin n \theta \right)\] (66)

この式を式(60)に代入し,三角関数の直交性を用いると,

\[\frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 \beta_{c\;n}}{\partial t^2} = \frac{\partial^2 \beta_{c\;n}}{\partial r^2} + \frac{1}{r} \frac{\partial \beta_{c\;n}}{\partial r} – \frac{n^2}{r^2} \beta_{c\;n}\] (67)

\[\text{(}\beta_{s\;n}(t,r,\theta)\text{に関しても同様の式)}\]

を得る。式(67)に対して,演算子

\[B \equiv \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{1}{r} \frac{\partial}{\partial r} – \frac{n^2}{r^2}\] (68)

に関する固有値問題を考える。演算子$B$の固有値を$\eta_{nm}$,固有関数を$R_{nm}(r)$とすると,

\[B \left\{ R_{nm} \right\} = \eta_{nm} R_{nm}(r)\] (69)
\[\therefore \quad \frac{{\rm d}^2 R_{nm}}{{\rm d} r^2} + \frac{1}{r} \frac{{\rm d} R_{nm}}{{\rm d} r} – \frac{n^2}{r^2} R_{nm} = \eta_{nm} R_{nm}\] (70)

ここで,スツルム・リウビル型微分方程式との対応を見るために,

\[y \equiv \sqrt{-\eta_{nm}} r\] (71)

の変数変換を行うと,

\[\frac{{\rm d}^2 R_{nm}}{{\rm d} y^2} + \frac{1}{y} \frac{{\rm d} R_{nm}}{{\rm dy}} + \left( 1 – \frac{n^2}{y^2} \right) R_{nm} = 0\] (72)

を得る。この式は,前回の最後に紹介したベッセルの微分方程式であり,スツルム・リウビル型演算子の固有値問題の形をしている。この方程式は,ある与えられた$n$に対して,ベッセル関数とノイマン関数の二つの基本解(固有関数)をもち,それらは直交関数系を構成する。したがって,方程式(72)の解$R_{nm}$は,ベッセル関数$J_n(y)$とノイマン関数$N_n(y)$を用いて,

\[R_{nm} = \gamma_{J\,n} J_n(y) + \gamma_{N\,n} N_n(y)\] (73)

と与えられ,式(71)より,

\[R_{nm}(r) = \gamma_{J\,nm} J_n (\sqrt{-\eta_{nm}} r) + \gamma_{N\,nm} N_n(\sqrt{-\eta_{nm}} r)\] (74)

となる。図10にはベッセル関数のグラフ($n = 0 \sim 3$)を示す。

図10 ベッセル関数

今,円形膜の振動の問題では,膜の振動領域は,$0 \le r \le a$(円の内部領域)である。中心$r = 0$では,ノイマン関数は,$-\infty$に発散するため,原点で有限な値を持つ円の内部領域の解としては,ベッセル関数のみが許され,式(73)で$\gamma_{N\,nm} = 0$となる。

\[\therefore \quad R_{nm}(r) = \gamma_{J\,nm} J_n(\sqrt{-\eta_{nm}} r)\] (75)

となる。境界条件:$u(t,a,\theta) = 0$より,

\[R_{nm}(a) = \gamma_{J\,nm} J_n(\sqrt{-\eta_{nm}} a) = 0\] (76)
\[\therefore \quad J_n(\sqrt{-\eta_{nm}} a) = 0\] (77)

となる。式(77)を満たす$\eta_{nm}$が,演算子$B \equiv \dfrac{\partial^2}{\partial r^2} + \dfrac{1}{r}\dfrac{\partial}{\partial r} – \dfrac{n^2}{r^2}$に対する固有値を与えることになる。ここで,重要になるのは,前号まで扱ってきた両端を固定された系での,1次元の波動方程式の場合には,固有値は,$\lambda_n = -(n\pi/L)^2$と簡単な式で与えられたが,円形膜の場合には固有値の値はそんな簡単な式では与えられない。まず,ベッセル関数が0の値をとるゼロ点を知る必要がある。図10において,ベッセル関数が横軸と交差する点が,ベッセル関数が0の値をとる点に対応する。今,$J_n(y_{nm}) = 0$の関係を満たす正の根を,値の小さい方から$m = 1,2,3 \cdots$と番号付けし,その値を$y_{nm}$とおくと,図10からは正確な値を読み取りづらいが,$y_{01} \cong 2.405$,$y_{02} \cong 5.520$,$y_{03} \cong 8.654$……となっている。$J_n(\sqrt{-\eta_{nm}} a) = 0$より

\[y_{nm} = \sqrt{-\eta_{nm}} a\] (78)

したがって,

\[\eta_{nm} = -\left( \frac{y_{nm}}{a} \right)^2\] (79)

と$r$方向の微分演算子$B$に対する固有値が求まる。また,固有関数$J_n(\dfrac{y_{nm}}{a}r)$を基底として,式(66)の$\beta_{c\;n}(t,r)$は,

\[\beta_{c\;n}(t,r) = \sum_{m=1}^\infty \gamma_{c\,nm}(t) J_n(\frac{y_{nm}}{a}r)\] (80)

と表現でき,$\beta_{s\;n}(t,r)$に対しても同様な式となる。

この関係を式(67)に代入して,ベッセル関数の直交性を利用して,整理すると,

\[\frac{1}{c^2}\frac{{\rm d}^2 \gamma_{c\,nm}}{{\rm d}t^2} = \eta_{nm} \gamma_{c\,nm}(t)\] (81)

これより,

\[\gamma_{c\,nm}(t) = C_{c\,nm} \cos \frac{y_{nm}}{a} ct + C_{s\,nm} \sin \frac{y_{nm}}{a} ct\] (82)

を得る。以上の結果をまとめると,境界条件として式(61)で与えられる,円形の枠で固定された膜の振動を考えると,ある時刻$t$,膜上の点$(r,\theta)$における膜の変位$u(t,r,\theta)$は,次式で与えられる。

\[\begin{split}
u(t,r,\theta) = {}& \sum_{n=0}^\infty \sum_{m=1}^\infty \left\{ \left( C_{c\,nm} \cos \frac{y_{nm}}{a} ct + C_{s\,nm} \sin \frac{y_{nm}}{a} ct \right) \right. \\
& \left. J_n(\frac{y_{nm}}{a} r) \left( D_{c\,n} \cos n \theta + D_{s\,n} \sin n \theta \right) \right\}
\end{split}\]
(83)

この式より与えられた境界条件に対し,とびとびで固有値が与えられ,その固有値に対応する振動モード,そしてそれぞれの振動モードに応じた固有振動数$\omega_{nm} = \dfrac{y_{nm}}{a}c$が存在するのがわかる。なお,係数$C_{c\,nm}$,$C_{s\,nm}$,$D_{c\,n}$,$D_{s\,n}$は,初期条件より決定されることになる。

ここでは,式(62)で与えられる初期条件を考えると,初期条件が$\theta$方向に依存していないため,式(83)で$n = 0$の軸対称の解のみを考えれば良い。ゆえに,

\[u(t,r,\theta) \!=\! \sum_{m=1}^\infty \left\{ \left( C_{c\,0m} \cos \frac{y_{0m}}{a}ct \!+\! C_{s\,0m} \sin \frac{y_{0m}}{a}ct \right) J_0(\frac{y_{0m}}{a}r) \right\}\] (84)

とおくことができる。初期条件(62)$u(0,r,\theta) = f(r)$,$\dfrac{\partial u(0,r,\theta) }{\partial t} = g(r)$,を用いると,

\[f(r) = \sum_{m=1}^\infty C_{c\,0m} J_0(\frac{y_{0m}}{a}r),\] (85)
\[g(r) = \sum_{m=1}^\infty \frac{y_{0m}}{a}c C_{s\,0m} J_0(\frac{y_{0m}}{a}r)\] (86)

となる。

ここで,ベッセル関数の直交関係式,

\[\int_0^a r J_0(\frac{y_{0m}}{a}r) J_0(\frac{y_{0k}}{a}r)dr = \left\{ \begin{array}{@{}cl@{}}
0 & (m \ne k) \\
\dfrac{1}{2} a^2 \left\{ J_1(y_{0m}) \right\}^2 & (m = k)
\end{array}\right.\]
(87)

を用いると,式(84)の係数$C_{c0m}$,$C_{s0m}$に関して次式を得る。

\[C_{c\,0m} = \frac{2}{a^2 \left\{ J_1(y_{0m}) \right\}^2} \int_0^a r\,f(r) J_0(\frac{y_{0m}}{a}r) dr,\] (88)
\[C_{s\,0m} = \frac{2}{y_{0m} c a \left\{ J_1(y_{0m}) \right\}^2} \int_0^a r \, g(r) J_0 (\frac{y_{0m}}{a} r) dr\] (89)

1次元の波動方程式において,初期条件を固有関数である$\sin \dfrac{n\pi x}{L}$で展開して表現したものが,関数$f(x)$のフーリエ級数展開に対応していたように,式(85)は,関数$f(r)$のベッセル関数を用いた直交関数展開(一般化フーリエ級数展開)になっている。また式(88)は,このときの展開係数$C_{c0m}$の計算式を表している。一点,重要な点は,ベッセル関数の直交関係では,式(88),(89)にあるように重み関数$w(r) = r$をかけて,直交関係に関する内積の計算が行われ,フーリエ級数の展開係数が求められる。

以上,円形膜の場合には固有関数として,ベッセル関数が現れ,膜の固有振動数のとびは,ベッセル関数のゼロ点に関連することを示した。弦の振動では,振動数のとびは,基本モードの整数倍で与えられるが,円形膜では,$y_{02}/y_{01} = 2.295$,$y_{03}/y_{01} = 3.598$となり,基本モードの整数倍にはならない。これは,たとえば,両端固定された弦の真ん中を引っ張ったときの振動と,円形膜の真ん中を引っ張ったときの振動では,両者の基本音(最低次のモード)が同じ振動数であったとしても,高次の振動モードの振動数が異なってくることに対応し,弦と円形膜では聞こえ方が異なってくることに繋がる。

 

参考文献

(3) 平尾雅彦,音と波の力学,(2013),岩波書店.


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授


 

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