特集 次世代デジタルインフラの構築
高EO 材料集積変調器を適用した高変調効率光エンジン
はじめに
デジタル技術の進展により、データセンタートラフィックが急増する中、高速・大容量データ伝送の重要性が増し、光ファイバを伝送媒体とした光伝送が大きな役割を果たしている。データセンター間、および、それより広域のネットワークにおいてはデジタルコヒーレント技術を用いた光伝送が適用され、形態としては一般的にはプラガブル光トランシーバなどが用いられている。一方、データセンターの消費電力も重要な問題として顕在化し、より少ない消費電力でより多くのデータを伝送する技術開発が必須である。
これまでにシリコンフォトニクス(SiPh)などの光集積技術を用いることで、QSFP-DD、OSFPなどの小型Form Factorで、動作速度64GBaud、波長当たりの伝送容量400Gbpsの光トランシーバの実用化が進み、さらに近年、動作速度130GBaud、伝送容量800Gbpsへの拡大が立ち上がりつつある。その実現には、小型化のための集積性を維持しつつ、伝送大容量化に対応する高性能化と低消費電力化が求められる。本稿では、キーデバイスである光エンジンと、その高効率化に向け高EO材料を用いた高周波・高集積光変調器の開発状況とついて説明する。
高変調効率光エンジン
光エンジンの構成
図1に、高変調効率光エンジンの概念図を示す(1)。光エンジンは、電気信号をコヒーレント伝送の光信号に変換するキーデバイスであり、光変調器を含む光デバイスと、変調器ドライバ(DRV)などの電気回路と、それらの高速・高密度実装で構成される。求められる大容量化・小型化・低電力化、すべての要求を満足する高変調効率光エンジン実現ため、以下の技術の開発を行っている。

図1 高変調効率光エンジン
①光変調器に高電気光学(高EO)材料の適用を可能とする技術、高効率変調器構造の研究開発
②高速電気信号伝送の短距離化に向けた2.5D実装の研究開発
高効率化に向けた光変調器の技術動向
大容量化かつ高変調効率の光エンジンを実現するには、送信側の光変調器において、増大する動作速度に応じた広信号帯域にてフラットなEO(Electro-optic)応答特性、かつ低駆動電圧での動作を確保することが重要である。
その指標となる光変調器固有のパラメータは、高周波での半波長電圧(RF Vπ)であり、これは静特性での半波長電圧(DC Vπ)とEO応答における3dB帯域により決まる。これらについて、報告されている各種材料の変調器特性を図2に示す(2)。材料の候補としては、薄膜LN(TF-LN: Thin-Film Lithium Niobate)(3)~(5)、InP系材料(6)(7)、EOポリマ(8)、純シリコン材料(9)(10)である。光エンジンの高効率化には、RF Vπの向上、すなわち図2の右上方向への改善が必要である。SiPhは集積性に優れ、光エンジンに必要な機能を1チップで実現できる一方、キャリアプラズマ効果を用いた純シリコン材料の変調器特性はRF Vπの点で他のEO材料と比べて大きく劣り、大幅な特性改善は困難な状況である。800Gや、さらに次の世代においても光エンジンを広く用いるためには、集積性の点で有利なSiPhのプラットフォームを活かしつつ、変調器の特性を大幅に改善する技術開発が重要となる。

図2 報告されている変調器の特性
高EO材料集積変調器
異種材料集積の取組み
そこで、SiPhのプラットフォームに他のEO 効果の大きな材料を導入し、変調器の特性を大幅に改善する異種材料集積技術が検討されている。図3に、コヒーレント伝送の送受信機能を有する光集積回路において、変調器部分に異種材料集積技術を適用した概念図を示す。このような異種材料集積シリコン変調器の開発に当たっては、以下の2点がポイントとなる。

図3 高EO材料を集積した光集積回路
(1) 高EO材料
高EO材料の候補は、図2に挙げたTF-LN、InP、EOポリマなどがある。SiPhにおいては、DSP、ドライバなどの電子回路との近接接続と同一パッケージ収容を行う、光電融合技術が適用されつつある。このような光電融合技術との整合性を確保するため、EO効果の大きさ以外に、温度コントロール(TEC: ThermoElectric Cooler)の必要性など、動作環境に対するRobust性も材料選択のクライテリアである。また、実用化の観点からは、大面積のウェハ上に形成された高品質な膜が入手可能か、材料特性の信頼性が確保されているかについても重要である。
先に挙げた候補の内、TF-LNは広い温度範囲で動作可能なRobust性を有することに加え LNはバルク材料として確立されており高品質の薄膜も入手可能であることから、異種材料集積の材料として有望と考えている。TF-LNを用いた変調器はコヒーレント製品への適用が始まっており今後が期待される材料である(11)。
(2)SiPhへの異材料集積技術
SiPhプラットフォームへの異種材料集積の工法についても、さまざまな方式が検討されている。これらは、SiPhに集積される異種材料の形態に依り、大まかに分類される。集積される異種材料を光変調器構造に加工したあとに、SiPhに搭載する方法として、マイクロトランスファー・プリンティング(µTP)(12)や、フリップチップボンディング(FCB)などの手法がある。これらは異種材料とSiPhとで、それぞれ加工した素子を組み合わせる方式である。
一方、SiPhウェハ上に、構造を持たない異種材料のウェハ、ダイを貼り合せ、その後にSiPhウェハ上の異種材料を変調器構造に加工する方式もある。本方式は、集積後の加工プロセスが必要、異種材料側の材料利用効率が低い点でµTPやFCBに対して劣る一方、特にウェハボンディングにおいては、製造技術が既に複合基板作製(SOI、LNOIなど)として確立されている点が優位となる。
高EO材料集積回路
ウェハボンディングの一形態として提案する裏面ウェハボンディング方式を用い、高EO材料としてTF-LNを異種材料集積した光回路の試作結果を図4に示す。図4(a)はウェハ外観、図4(b)はチップ部分拡大である。本方式では、まず変調器以外の光素子を搭載したSiPhウェハを作製する。このSiPhウェハ表面に別の支持基板を貼り合わせ、裏面のSi基板を除去する替わりにLNウェハを貼り合わせ、その裏面の基板を除去したあとに薄膜状のLNを変調器に加工する。本手法は、上述のウェハボンディングの利点に加え、SiPhプロセスに新規開発要素がない点が優位である。また、TF-LN変調器の高周波損失は基板の誘電損失が支配的であるため、別の支持基板を導入する過程で高周波特性に優れる低誘電率基板を用いることで、広帯域特性を実現可能という利点も有している。

(a) ウェハ外観

(b) チップ部拡大
図4 裏面ウェハボンディング方式を用いた高EO材料集積光回路の試作結果
おわりに
本稿では、データセンターにおける光ネットワークに焦点を当て、そのキーデバイスである光エンジンの開発について述べた。データセンターネットワークは、チャネルあたりの高速化と高密度化で光伝送容量の拡大が進む一方で、消費電力が高まっており、低電力化技術が重要になる。高変調効率光エンジンは、光スマートNICへの適用をはじめ、今後ますます需要が増大する小型・低電力の光伝送に広く適用できる技術であり、データセンター内の光伝送装置の小型化・低消費電力化への貢献に加え、AI処理能力の向上などへの展開が期待できる。
謝辞
本成果の一部は、NEDO〔(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構〕の助成事業(JPNP21029)の結果得られたものです。
参考文献
(1) 次世代グリーンデータセンター技術開発 事業戦略ビジョン,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),
https://green-innovation.nedo.go.jp/pdf/building-next-generation-digital-infrastructure/item-003/vision-foc-003.pdf
(2) 秋山傑, 三田村 宣明, 高林 和雅, LiNbO3等のEO材料を用いた高速・集積デバイス向け光変調器の開発, レーザー学会学術講演会第44回年次大会(2024), S09-17p-V-03.
(3) M.Xu, Y.Zhu, F.Pittalà, J.Tang, M.He, W.C.Ng, J.Wang, Z. Ruan, X.Tang, M.Kuschnerov, L.Liu, S.Yu, B.Zheng, X.Cai, Dual-polarization thin-film lithium niobate in-phase quadrature modulators for terabit-per-second transmission, Optica 9(1) (2022), pp.61-62.
(4) P.Kharel, C.Reimer, K.Luke, L.He, M.Zhang, Breaking voltage–bandwidth limits in integrated lithium niobate modulators using micro-structured electrodes, Optica 8(3) (2021), pp.357-363.
(5) C.Wang, M.Zhang, X.Chen, M.Bertrand, A.Shams-Ansari, S.Chandrasekhar, P.Winzer, M.Lončar,Integrated lithium niobate electro-optic modulators operating at CMOS-compatible voltages, Nature 562 (2018), pp.101-104.
(6) Y.Ogiso, J.Ozaki, Y.Ueda, H.Wakita, M.Nagatani, H.Yamazaki,NTT Device Technology Laboratories, Nippon Telegraph and Telephone Corporation, Atsugi, Japan, 80-GHz Bandwidth and 1.5-V Vπ InP-Based IQ Modulator, J. Lightwave Technology 38 (2020), pp.249-255.
(7) J.Ozaki, Y.Ogiso, Y.Hashizume, H.Yamazaki, K.Nagashima, N.Nunoya, Over-85-GHz-Bandwidth InP-Based Coherent Driver Modulator Capable of 1-Tb/s/λ-Class Operation, J. Lightwave Technology 41 (2023), pp.3290-3296.
(8) G.-W.Lu, J.Hong, F.Qiu, A.M.Spring, T.Kashino, J.Oshima, M.Ozawa, H.Nawata, S.Yokoyama, High-temperature-resistant silicon-polymer hybrid modulator operating at up to 200 Gbit/s for energy-efficient datacentres and harsh-environment applications, Nature Communication 11 (2020), No,4224.
(9) Z.Zheng, A.Mohammadi, O.Jafari, H.Sepehrian, J.Lin, X.Zhang, Silicon IQ Modulator for 120 Gbaud QAM, ECOC 2021 (2021), Tu4D.3.
(10) J.Wang, W-J.Jiang, Y-W.Chen, M.Al-Qadi, K.Li, K.Kuzmin, Silicon Photonics IQ Modulator Targeted for 800ZR Data Center Interconnection, ECOC 2022 (2022), We3D.4.
(11) S.Makino, S.Takeuchi, S.Maruyama, M.Doi, Y.Ohmori, Y.Kubota, Demonstration of thin-film lithium niobate high-bandwidth coherent driver modulator, OFC 2022 (2022), M1D.2.
(12) T.Murai, R.Kou, C.Guangwei, M.Imai, K.Takabayashi, N.Mitamura, S.Akiyama, K.Yamada, Micro-transfer Printed Thin-film Lithium Niobate Modulator for Heterogeneous Si Photonic Platform, CLEO Pacific Rim 2024 (2024), Mo1D-3.
古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ(株)
オプティカルコンポーネンツ事業部
キーワード:特集 次世代デジタルインフラの構築