特集 機械技術史のあり方を考える
土木学会と土木遺産 ― 選奨土木遺産の取組みを中心として ―
土木学会と土木遺産
土木学会に限らず、技術系の学会の関心の多くは、新技術の開発やその普及にあるので、過去の技術を振り返る必要性に乏しく、技術史への関心は全般に低かった。しかし、高度成長が一段落した時期になると、公共事業の見直しや、「3K(キツイ、キタナイ、キケン)」で代表される土木に対するマイナスイメージなど、土木分野に対する逆風は土木学会や業界団体の間で大きな課題となり、土木に対するイメージアップや、「土木」という名称そのものの見直しが行われるようになった。こうした中で、かつて土木技術者が築いてきた事業を再評価し、将来の土木技術者が果たすべき社会的役割や、技術者としての使命を考えるための題材として土木史が注目されるようになり、1973(昭和48)年に土木学会に土木史研究委員会が設置された。
委員会では、シンポジウムの開催などを通じて土木史研究のPRを進め、1981(昭和56)年には第1回の研究発表会を開催した。日本土木史研究発表会(現在は土木史研究発表会)は、2025(令和7)年までに45回を数え、研究者の発表の場として、若手研究者の発掘・育成のみならず、海外の研究者や他分野との学際的交流を通じて、土木史研究の領域を広げた。
この委員会では、1991(平成3)年から中部5県の近代土木遺産調査を行い、さらに1993(平成5)年より全国規模での実態調査をスタートさせた。その成果は『日本の近代土木遺産-現存する重要な土木構造物2000選-』として2000件の件名リストとともに公表された。調査の基本的な考え方については、すでに日本建築学会による近代建築全国調査の先例があり、これをモデルとして土木構造物ならではの特徴や、土木分野固有の視点を加味しながら作業が進められた。特に土木事業は、トンネルや橋梁のような単体ではなくインフラ整備のプロジェクトとして事業が進められてきたこと、その多くが公共事業として行われたため遺産の所有者も行政や法人であることといった特徴があり、こうした前提条件を念頭に調査が進められた。