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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」活動報告

井原 郁夫(長岡技術科学大学)

はじめに

学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」の活動は2020年に開始し、2021年と2022年のそれぞれの年次大会において同テーマのワークショップを開催した。実は、この横断テーマの企画チームでは2019年より当該テーマに関する活動に着手しており、2019年度年次大会において理事会企画OSと公開パネルディスカッションを実施した。本特集ではこれまでの4年にわたる横断テーマ活動を振り返り、今後の展開を見定めるために、企画チームのメンバーの方々に幅広い視点から提言をいただくこととした。さらに、2022年度年次大会でのワークショップに参画いただいた本会8部門と土木学会のそれぞれの代表者の方々からも、各位の専門や経験を踏まえた、今後の部門連携・学協会連携に向けた提言をいただいた。いずれも本会の方向性を探る上で有益な玉稿であり、是非、ご一読いただきたい。

背景と活動の狙い

2022年11月現在、世界はコロナ感染によるパンデミックに加えて緊迫したウクライナ情勢という二重の危機に直面している。そのような世界規模の不安の中にあって関心が薄れがちであるが、我が国はコロナ禍以前から、いくつかの深刻な喫緊課題を抱えている。その一つは社会インフラの老朽化問題であり、切迫する巨大地震や頻発する異常気象による災害リスクを踏まえると、その安全対策は待ったなしの課題である。また、人々の生活を支えている大型プラントや交通・機械システムの予防保全は、安全安心な社会を維持するための基本であり、それらの維持・管理のための技術革新が強く求められている。これらの社会課題に対して、国内では既にいくつかの取組み(省庁や政府のプロジェクト、各学協会での支援活動)がなされているが、稼働中のインフラや機械設備の健全性を的確に把握することは容易ではなく、克服すべき技術課題は数多く残されている。

本横断テーマでは社会が直面するそのような喫緊課題の克服に向け、機械学会の強みを最大限活かし、機械学会だからできること、機械学会にしかできないことを意識した取組みを模索、立案し、活動を実践する筋道を開拓することを目指した。機械学会の強みとして、22部門を擁する総合工学的学会であるということが挙げられる。本横断テーマでは実社会ニーズに応えるべく、本会が有する多彩な人的・学術的リソースを再発掘し、それらの融合を促すことで、喫緊の社会的課題に対応できる新たな学会シーズを創成することも目標の一つに掲げた。これを達成するための一連のプロセスでは、異なる専門領域の研究者・技術者の交流が不可欠であるため、自ずと部門連携が促進されると期待される。異分野融合を促すことで産業界や他学協会との連携も加速され、そのシナジー効果も期待される。

これらの活動を通じて人材の連携、技術の融合による新しい風を吹かせることで本会の活性化を促し、本会が担うべき社会貢献を果たしていく。ここに学会横断テーマ活動の大きな意義があると考える。

これまでの活動

当該横断テーマのこれまでの活動の流れを図1に示す。

まず、2019年度年次大会(秋田)では、部門の枠を越えた新しい試みとして日本非破壊検査協会との連携による理事会企画OS「機械・インフラの健全性評価」を実施した。3日間の会期を通じて、機械工学をベースとした幅広い視点から、健全性評価に関する53件の講演発表がなされた。公開パネルディスカッションでは、土木構造物、化学プラント、電力設備、鉄道車両、ビルの5分野のキーパーソンを招き、各分野が直面する課題、その克服への方策、AI、ビッグデータサイエンスなど新技術の可能性について討論し、実社会の現状を把握するとともに具体的な課題を洗い出した(1)

2021年度年次大会(千葉)では、当該横断テーマに加えてサブタイトルとして「DX社会は機械学会に何を望む?」を掲げたワークショップを開催した。各産業が抱える現状のボトルネックを再確認し、その克服に向けた日本機械学会への要望を汲み取ることを試みた。ここでは、社会インフラ、産業インフラ、ものづくりなどの業界において第一線で活躍中の方々をパネリストとして招き、それぞれの課題についてDX(ディジタルトランスフォーメーション)を絡めた切り口で話題提供いただき、総合討論を展開した(2)その議論の中で、当該横断テーマにおける課題は、技術的なものだけでなく、法規や制度設計、さらに人材育成など非技術的なものも含まれることが鮮明になった。

さらに部門連携を意識した活動として、2021年度の4つの部門講演会において、当該横断テーマとの連携企画をそれぞれ独自の形式で実施した。具体的には、情報・知能・精密機器部門/生産システム部門講演会(コロケーション)では横断テーマ連携OS(2セッション)を、材料力学部門講演会では特別企画フォーラム「機械・インフラシステムの保守・保全の実際と展開」を、さらに機械材料・材料加工部門講演会では横断テーマ連携OS(3セッション)を実施した。これらを通じて各部門に潜在している当該横断テーマに関わるシーズ/ニーズを顕在化できたように思われる。

2022年度年次大会では、サブタイトルとして「部門連携・学会連携への期待」を掲げたワークショップを開催した(3)。ここでは、機械学会の特徴と強みを活かした取組みとして、部門連携と他学協会連携について正面から向き合い、議論を深めることとした。具体的には、機械学会の8部門ならびに土木学会からの代表者に参画していただき、それぞれの分野の特徴を踏まえた連携活動の在り方について話題を提供いただき、総合討論を展開した。これらを通じて、当面の課題克服のためだけでなく、本会の活性化と価値向上をはかるためにも新たな部門連携や学会連携の展開が有益であることを再確認した。

図1 本横断テーマのこれまでの活動

今後に向けて

本会では会員数と論文数の減少傾向が続いており、学生・若手会員や企業会員の学会離れも深刻になりつつある。これらは少子化を始めとする社会情勢や産業構造の変化という外的要因を反映したものかもしれないが、機械学会がステークホルダーの期待に必ずしも応えていないという内的要因も拭えない。本会を魅力あるものとし、その価値を向上させ、幅広いステークホルダーの期待に応えるには、本会が産業界を先導する「新たな機械工学」を創り、それをステークホルダーと共有することが肝要であろう。

「新たな機械工学」の創成は容易ではないが、一つの方策として「連携」によるシナジーの活用は捨て難いと考える。一方で、本会には高度に専門化、細分化された22部門に基づく多様な付加価値の高いシーズがあるものの、必ずしも部門連携のシナジー効果はもたらされていないようである。部門連携、学協会連携は目的達成のための手段であり、それ自体が目的ではないが、まずは新たな連携を模索し、実践することは有意義であると考える。そのためには部門同士が互いを良く知る機会を持つことが大切であり、そのための出会いの場、多様な人材のオープンディスカッションの場を効果的に提供することも学会横断テーマ活動の役割と考える。

機械学会はその特徴を活かすことで、横断的総合技術に関する情報交換と議論の場を産官学に提供できることから、さまざまな社会ニーズとそれに応える学術シーズを柔軟かつ効果的に結び付ける新たなハブとなり得る。学会横断テーマ活動の波及効果として、機械工学の新たな価値を生み出すための連携拠点すなわちJSME連携プラットフォームとしての機能が本会に根付くことを期待する。

最後に、本テーマ活動の遂行に際して、かけがえのないお力添えを賜りました8名の企画チームメンバーの方々に深く感謝申し上げます。


参考文献

(1) 特集「機械・インフラの健全性評価の現状と展開」, 日本機械学会誌,Vol.123, No.1215(2020), pp.4-31.

(2) 井原郁夫,学会横断テーマ2021年度年次大会企画③機械・インフラの保守・保全、健全性強化, 日本機械学会誌,Vol.124, No.1233(2021), pp.18-19.

(3) YouTubeリンク:https://youtu.be/0auEkz9hx_s


<フェロー>

井原 郁夫

◎長岡技術科学大学 副学長/大学院工学研究科工学専攻

(機械工学分野) 教授

◎専門:非破壊センシング、材料力学

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