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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

DX 時代の機械・インフラの保守・保全、信頼性強化

有坂 寿洋〔(株)日立アカデミー〕

はじめに

日常に垣間見える機械・インフラ

最近、深夜帯に高速道路を車で走ることが多く、その中でよく見かける光景が2つある。ひとつは高速道路上を延々と連なって走るトラックの列であり、もうひとつは、ほぼ毎回目にする車線を規制しての道路工事である。

前者のトラック列は、今や国内の主要な物流がトラック輸送によって支えられていることを示し、特に乗用車が少ない深夜帯は、顕著にサプライチェーンを深夜のトラック輸送が支えている様子を目にしているとも言える。

また後者の高速道路工事は以前から保守作業や新規の道路との接続など、普通に存在した光景であるが、特に最近は「道路の補修をしています」という表示をしている多くの工事区間を目にする。通行する車の横で作業を行う危険な現場に従事する作業者の方には頭の下がる思いである。

社会を支える機械・インフラのDX

開発・製品寿命の異なるものがシンクロする

現代社会を支えるインフラには、水、電気、ガスといったライフラインに加えて、このような物流を支える交通インフラがあり、そして情報を伝える通信インフラがある。

情報通信インフラを支える、ストレージ機器等の情報機器はこの60年ぐらいの間に急速に技術が進み、製品開発も年単位あるいは月単位で製品開発が進むという状況である。そしてこれらの情報機器の寿命は数年、長くても10年といったところで、これは機械としての寿命というよりも、仕様や周辺の規格が変化することによって交代を余儀なくされるという理由によるところも大きい。

一方で前述のライフラインや交通インフラは、それより遥かに長く、数十年の寿命を前提としているものも多い。高度経済成長期のインフラが寿命を迎えて補修に次ぐ補修を行っている状態と比較して、情報通信インフラの寿命の短さは対照的であるとも言える。

しかし一方では、頻繁に補修作業を重ねていくということは、情報通信機器の寿命の短さと時間間隔が合ってきているという見方はできないだろうかと考えている。デジタル技術をそのインフラの寿命を延ばすためだけでなく、機能を拡張することに使えるチャンスでもあるということである。もちろんすでにそういった構想や動きはあると思われるが、センサーやビーコンを埋め込むことができれば、自動車単独の制御による自律運転よりも高度化でき、車両自体の低コスト化も可能になり、深夜のトラック輸送を変革していく例などが想像できる。

もちろん構造の主要な部分の老朽化の対策として一から作り直す場合は十分な計画が必要であり、その際は先を見据えてシミュレーションを有効に活用したい。そのためのデータを集めるためにも情報通信機器の設置が望まれる。

こういった変革を促す動きこそ、すわなち「DX」として知られるものそのものである。

最後に

DXの向こう側

機械・インフラの保守、保全、信頼性強化はDXと相性が良いことを述べた。ただ、ひとつ大切な視点があることを述べたい。最近、IT技術や教育関係の出身者が多い大卒新人グループに、モノづくり関係の研修施設を体験、見学させる機会があった。初めて溶接作業を間近で見るのはよい経験になったと思われるが、最後にモノづくりを教えている講師の言葉「DXやIoTの向こう側で、こうやってモノを作っている人がいる」にいたく感銘を受けた、という感想があった。モノづくりの現場も、冒頭に見た機械・インフラの保守、保全の現場も、同じようにまだまだ人がその身を張って支えているのである。

DXでビジネスのやり方、進め方を変革するにしても、その先に現場を支える人と技術があることを多くの人に伝えていければと思う。


<フェロー>

有坂 寿洋

◎(株)日立アカデミー 研修開発本部 担当本部長

◎専門:振動工学、機械力学、情報機器設計

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