一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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第87期会長就任のご挨拶

有信睦弘[(株)東芝 顧問]
Mutsuhiro ARINOBU


1. 製造業の地盤沈下

機械学会は製造業と製造業の製品を基盤とするサービス業に関わる技術者と、その学問的な基盤を支えるアカデミアの教員・研究者の集団と理解しています。基盤である製造業の売上高の世界シェアは、日本アズナンバーワンと浮かれていた90年代初頭をピークとし、いまや中国に追い越される状況です。また、製造業の日本のGDPに占める割合は30%を切り、2000年には世界トップであった一人当りのGDPは米英仏独を下回るところまで急速に低下しています。生産性の高い製造工場の外地化により日本のGDPの主体が生産性の低いサービス業に移行すると共に、製造業の基盤技術の衰退が始まっています。

国力の源泉はGDPであり、GDPの増大にはサービス業の生産性向上が最短の道に見えますが、重要なサービス業が製造業の作り出す「もの」に依存していることを忘れてはなりません。人や社会の要求に直接結びつくサービスと製造業の価値連鎖を明確に意識したイノベーションが求められているのです。

2. 大学をめぐる欧米の動きと技術者資格

欧州では99年に出されたボローニャ宣言を中心に大学の学位の共通化と質の保証の流れが進んでいます。2007年のロンドンコミュニケでは、学士・修士・博士の3サイクルの学位の共通化が決定されています。また、OECDでは学士教育の質を試験ではかることのフィージビリティスタディを行おうとしており、日本は工学の分野で参加することになっています。学位の共通化と質保証の動向は世界を巻き込んで進むと共に、教育も国際競争の波に曝されつつあります。

95年にGATTがWTOに改組されたときに、人の提供するサービスを協議対象に加えると共に、各国の職業資格が非関税障壁になってはならないとの合意がなされています。同年にNAFTAエンジニア、APECエンジニアと言う形で技術者資格の相互承認の枠組みが進められています。日本では2000年に技術士法が改正され、新たに設立されたJABEEによる工学教育プログラムの認定と密接に関連した形で、世界に通用することを目指した「新技術士」制度が発足しています。機械学会はJABEEと蜜に連携していると共に白鳥会長の時代に技術士会とも連携を強化しました。これからも国際的に通用する技術者資格という視点での取り組みを強化していく必要があります。

3. 学生の工学離れ

理系、文系の志望者の割合に大きな変化がないにも拘らず、工学を志望する割合は大きく減少してきています。イノベーションの多くは技術革新によって牽引されてきたことを考えると、これは重大な問題です。学会も産業界も、工学への興味を持たせるための様々な施策を様々な対象に対して進めてきています。これらの活動を俯瞰的にまとめ、様々な学会が協働することによって、より効果的に人々の工学への興味を涵養する必要があります。学会の取組みに対しては日本工学会に取りまとめ役をお願いし、電気学会や経済産業省とも連携して具体的な活動を開始したところです。機械学会の支部組織と地方の行政組織との連携を進め、全国的に対応策を展開していきたいと思っています。

4. 機械学会の果たすべき役割

機械学会は機械にかかわる技術者と、研究者の団体です。中でも会員の多数を占める企業の技術者にとって機械学会がより身近で、活動しやすい場である必要があります。歴代会長の御努力を中心に、機械学会のプレゼンスは向上してきています。今後は、様々な問題にタイムリに対応することによって、より一層学会が身近に感じられるようにしていきたいと思います。総会で承認されたイノベーションセンタを中心に、日本の製造業や大学教育の課題に対しても学会の立場で迅速に対応することによって、会員にとってより有益である学会となるべく努力したいと思います。会員の皆様方の御指導御鞭撻を切にお願いします。