一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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第88期会長就任のご挨拶

科学技術を支える人材の育成と
活用の場としての学会活動を

松本洋一郎[東京大学 教授] Yoichiro MATSUMOTO


人類の将来を支える工学

機械工学は,持続可能な社会の構築を支え,様々な課題の解決に資する基盤的な工学で,科学技術に深く根ざし,広い範囲を網羅し,人類の将来に大きな責任を負っています.言うまでもなく,科学技術は,日本の国力の源泉であり,科学者・技術者の育成は,最重要課題の一つです.今日の経済的繁栄や国際的地位を築くことができた原動力は,科学技術・学術の力にあったことは,衆目の一致するところです.現在のわが国の国内的な豊かさや国際的な地位の達成の主役は科学技術であったと考えてよいでしょう.現在,日本の人口はすでに減少に転じ,世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行するとともに,あらゆる分野で国際競争が激化し,アジアにあっても近隣諸国の猛追を受ける中,わが国が持続的に発展し,国際社会において名誉ある地位を占め続けることができるかどうかは,科学技術・学術が決すると言っても過言ではありません.そのような状況の中で,機械学会は工学の中核学会として,技術開発をリードし,人材育成に責任を果たすべく,学術基盤を拡大・充実させ,社会に対する発信力を高めていく必要があります.

学術基盤の充実に向けて

そのための具体的な方策として,ここ数年にわたり,歴代会長のリーダーシップの下,学会機能を充実させるべく,様々な改革を進めて参りました.例えば,「機械の日,機械週間」の制定,学会本部事業を強化するための「イノベーションセンター」,「標準・規格センター」,「出版センター」などの設置,改廃,強化,団塊の世代が定年退職の時期を迎えつつあることを踏まえた会員シニア活用の推進,多くの学協会が直面している正会員漸減に対する対策,若者の工学離れ対策を含めた科学技術人材育成への貢献,技術者集団としてのプレゼンス,ステータスの向上に向けた活動,電子媒体による部門独自の英文ジャーナルの発行,和文論文集における学術と技術の乖離を埋めるための方策の推進等が行われました.また,ナノテクノロジー,バイオメディカル分野への進出など新たな分野の取り込みも活発化しています.

これらの改革に加えて,今期においても改革の成果を実質化するべく尽力していくことが重要であると考えています.今後の具体的な課題をいくつか列挙します.

長期的な人材の育成を考えますと,若者の工学離れ,国際離れ対策として,年次大会,総会などでの特別企画,日本工学会に設置される「科学技術人材育成コンソーシアム」への協力など,学会内外における活動を強化して行きます.また,会員シニアの活動の活性化に向け,シニア会の組織化,各種受託事業への参加など学会員であることの存在感を生かす活動を行うことが重要と考えています.現在,小中学校生の理科離れ対策の一環として,教育現場への技術者の参加など,様々な新たな試みについて「日本産学フォーラム」を中心に議論が進んでいますが,学会としても組織的な取り組みとして検討することも有用と考えています.

次に健全な財政の確立です.正員,特別員からの会費収入,図書の売上,広告収入など収入減による一般財政規模縮小に直面しており,新たな収入源の確保など,中長期的視点に立った財政健全化を図る必要があります.一方,非営利性の高い一般社団法人への移行に向けて,公益会計基準の適用に向けた各事業会計の透明化など一連の改革が必要です.各種事業の運営に当たっては収入,支出,すなわち維持コストと収益性のバランスを十分に考慮して,運用していく必要があります.その為には,学会の事業活動を,会員が望む活動であったか,学会財務に貢献したか,社会に裨益したかなどの観点から評価を実施するとともに,その結果を反映した事業の改廃,再編を行うことが重要となって来ています.

また情報技術のさらなる活用として,会誌会告,和文論文集などの電子化を行い,技術者,研究者が等しく投稿,活用可能な和文,英文論文誌とすべく,抜本的な改革を行います.学会事務の業務改善の一環として,IT化など情報システムの抜本的な強化を着実に進めていく必要があります.

社会への発信力の強化を

上記の施策を着実に進めていくには,「機械の日」をはじめ,講演会,講習会など諸活動を強化するとともに,広く社会に発信し,機械工学の社会的認知度を格段に高めることが重要です.第84期に設定された「機械の日,機械週間」の事業は,部門・支部の全面的な支援の下に全国展開し,大きな事業に発展してきました.これをさらに継続すると共に他の機械系学協会の協力も得て,国民的な行事へと展開して行きたいと存じます.一方,110周年記念事業として行った「機械遺産」および「技術ロードマップ」は,マスコミ等でも取り上げられ大きな反響を呼びました.これらの事業を継承し,さらに発展させていきたいと思っています.すなわち,これらの諸活動を,他学協会,マスコミ,産業界,行政機関など関係機関と協力体制を確立することで,さらに広く,強力に発信していく必要があると思っています.言うまでもなく,国際的な情報発信の重要性は益々高まっています.国際チャプター(インドネシア,タイ)の活用,中国,韓国の機械系学会と協力関係を強化しつつ,諸外国の機械系学会との連携,関連する国際会議との協働など国際活動の強化を図る必要があります.その中でも日中韓の緊密な関係の強化は国際連携の要となるでしょう.

学会内外でのさらなる連携強化を

  人口減少と高齢化が進展する状況の中で,わが国の人々の生活と社会の質を高め,世界的な規模での環境的課題に対応していくためには,わが国において不断にイノベーションを創出していくことが不可欠です.イノベーションは単一の知識や単一の科学・技術によって成し遂げられるものではなく,様々な科学的技術的知識を政産官学の多様な立場から統合していくことが必要です.同時に,次のイノベーションの核となる学術を涵養しておくことが何にもまして重要です.さらに,人材だけが唯一の資源とも言えるわが国において,イノベーションを先導する人材の育成は焦眉の急です.その核となり得るのが機械学会です.科学技術を支える人材の育成と活用の場としての学会活動を継続していくことが求められています.その為には,機械工学の基盤領域の強化・拡大に加えて,課題解決型の研究,技術の発展を図るため,部門・支部・センターをより機動性の高い柔軟なものとすることに加えて,関連他学協会との今までの枠を超えた連携が益々重要となって来ています.さらに,学会財政の強化を図るとともに,技術者・研究者・教育者集団としての学会機能の強化を図るために,学会構成員の多数である企業の技術者に魅力あるものとするべく,技術者の能力開発支援活動の強化,大学等の研究者との協力・協働が容易に行える開かれた環境の整備に努めて行きたいと考えています.機械学会は長い歴史と伝統の下に発展して参りました.その恵まれた環境に甘えることなく,不断に改革を続けていくことが,組織の発展性・健全性の維持には必要不可欠なことであると考えています.

  最後に,有信睦弘前会長をはじめ,前期の理事会,支部・部門・諸委員会の皆様の献身的な活動に心から感謝申し上げますと共に,微力ながら学会の発展に全力を尽くす決意ですので,会員諸兄のご支援をお願い申し上げます.