講習会 渦流れの科学
【趣 旨】
流体工学の分野では計測技術の発展により複雑な流れ場を精緻かつ簡便に捉えることが可能となり,また近年のCFD技術の著しい進歩により,実験では再現困難な流れ現象についてもデスクトップで容易にシミュレーション可能となっています.このようにして得られた結果は設計や研究開発の現場で広く活用されるようになっていますが,高効率でより信頼性が高い機器の設計開発を実現するためには流れの現象を十分に理解し,計測結果やCFD解析の妥当性を適正に評価できる能力がますます重要となっています.
本講習会では流れの本質を捉える一つの方法として"渦"に焦点を当て,この分野の第一線で活躍されている研究者に登壇いただきます.渦の基本的な性質から産業機械で見られる渦,さらには気象・天文分野で見られる渦まで広範に解説し,参加者各位の能力向上に役立てていただきます.
【題目・講師】
9.20~10.40 渦流れの科学総論
亀本 喬司(横浜国立大学)
流れを理解するのに渦という概念は便利ですが,実験やCFDで得られた流れ場を適正に評価するためにはその本質を十分に理解しておく必要があります.本講義では渦流れの基本的な性質から流れにおける渦の役割,興味深い渦現象について解説いただき,さらに渦に着目した非定常流れ解析の最先端についても紹介いただきます.
10.50~12.10 渦の発生,成長,減衰~乱流境界層中の渦~
松原 雅春(信州大学)
流れ場に発生する渦は様々なスケールで観察することができます.特に乱流境界層においては非常に薄い領域で複雑な渦構造を示し,近年実験や数値解析により様々な知見が得られています.物体まわりの渦の初生から発達,消滅といった一連の過程から,乱流境界層中の渦の組織的構造まで解説いただきます.
12.10~13.10 昼休み
13.10~14.30 渦流れから発生する音とその解決法
高石 武久(鉄道総合技術研究所)
渦が引き起こす諸問題の一つとして,非定常な渦流れから発生する騒音が挙げられます.鉄道からは,レールや車輪の固体振動音など様々な音が発生しますが,特に新幹線のように高速で走る列車の騒音は,空力音の割合が大きくなり,その低減対策が重要となります.
本講では,空力音(渦音)の理論的背景について概説するとともに,身近な工業製品である鉄道車両の開発を例に,実験やコンピュータシミュレーションを活用した解決法を紹介いただきます.
14.40~16.00 ターボ機械と渦
古川 雅人(九州大学)
ターボ機械は,その作動原理に羽根まわりの循環がかかわることから,本質的に渦を有効に利用した機器といえます.一方,はく離や二次流れによりターボ機械内に生じる渦は,性能に大きく影響を与え不安定現象の原因となるだけでなく,予期しない振動・騒音の発生,機器の損傷にまで至る恐れがあります.
本講義ではターボ機械内で観察される特徴的な渦について概説するとともに,特異点理論に基づいた知的可視化(渦構造の同定および限界流線のトポロジー解析)によりターボ機械内の複雑な渦流れ現象を解析する方法について解説いただきます.
16.10~17.30 大気・海洋における渦構造のダイナミズム
新野 宏(東京大学海洋研究所)
冬季の天気予報衛星画像で見られるような,季節風により島嶼下流側に生じるカルマン渦状の雲列(韓国済州島の例など)と,水槽実験で得られるカルマン渦列が相似性を示すことは,機械技術者に限らず非常に興味深いものです.
本講義では機械分野から視点を大きく広げ,気象さらには天文分野といったマクロなスケールで見られる渦現象を採り上げ,自然界において渦の果たしている役割について解説いただきます.
【教材】
教材のみ希望の場合は,Web( http://www.jsme.or.jp/kousyu2.htm )からお申し込み下さい.1冊につき,会員3 000円,会員外4 000円にて頒布いたします.(教材は講習会終了後販売しません.)