イブニングセミナー(第151回) なぜ間違いは拡散するのか? -科学書で見られる流体力学に関する誤認識-
【開催日】
2012年7月25日(水)18.00~20.00
【趣 旨】
技術はいま,資源,環境問題をはじめ,巨大化とブラックボックス化による人間疎外の傾向に関して多くの批判にさらされている.技術が受け入れられて発展するのも,拒絶され衰微するのも,また技術者の社会的地位のあり方も,社会との深い関わりの中にあることは明らかである.われわれが新しい時代を担う責任ある技術者であろうとするならば,人間についての深い洞察を持つとともに,社会の動きを正しく見極めなければならない.技術と人間,技術と社会の関わりについて現状を理解し,将来を展望することを目的とする.
【テーマおよび講師】
数年前,青少年向けの科学入門書を10数冊ほど見る機会があった.理科離れが社会問題となって久しく,青少年をはじめとする一般への科学の普及活動はかつてよりも活発になっており,ずいぶんたくさんの書籍が出版されている.その中で流体力学に関する実験や現象は,予想外の挙動を示したりする意外性からよく題材として取り上げられている.
しかし,その原理の解説は間違ったものが非常に多く見られるのが実状である.たとえば,航空機の翼の原理で、翼の前縁で上下に分かれた流れが翼表面に沿って進み,同時に後縁に到達するという説明がある.同じ時間をかけて流れるので,翼上面は下面に比べて距離が長い分だけ流速が大きく,ベルヌーイの定理から上面の圧力が下面よりも低くなり揚力が発生する・・・と説明が続く.これは有名な間違いであり,上下面で同じ時間をかけて通過するという理由はないし,膨大な実験結果とも矛盾する.この間違いは数十年前からあり,一方,これが間違いであるという指摘も数十年前から存在している.
http://www.jsme-fed.org/experiment/2010_2/002.html
実験や理論的な考察をすれば間違いであることは確認できるのであるが,一般向けの書籍ではこの間違いが広く普及している.他にも実験等により間違いであることが明白であるにもかかわらず,一般向けの科学入門書で間違った原理のほうが広く普及しているという事例もある.学問的には明らかな間違いが研究者や専門家の手を離れて一人歩きしている構図が見られる.なぜ、このようなことになったのであろうか.
人は誰でも間違いはするし,過去の偉大な科学者たちもある部分で間違いをしていたということも多い.しかし,そのような間違いがあったとしてもその科学者が非難されるべきではないし、その人の業績に傷が付くものでもない.問題は,その間違いが他者か自身によってなぜ修正されずに伝達,拡散してしまったのかにある.少し話を拡げると,科学の進歩や発展の歴史においてそのような「間違い」は進歩を阻害し,マイナス面だけであったのだろうか.必ずしも害だけではなく,「間違い」があり,そこで議論が生まれ,新しい知見が生まれてくるという一面もあり,むしろプラスの面も大きかったとも考えられる.
これらを話題としてディスカッションできれば幸いである.
石綿良三(神奈川工科大学 教授)
【申込方法】
「No.12-88イブニングセミナー(第151回)申し込み」と題記し,
(1)会員資格(会員番号),(2)氏名,(3)勤務先・所属,(4)連絡先(郵便番号・住所・電話番号・E-mailアドレス)を明記の上,E-mailまたはFAXにて下記までお申し込みください。
<懇親会>
大学近くの「バブレストラン アミ」にて,講師を囲んで懇親会を行います.
会費 3 000円程度
【次回予定】
2012年8月29日 (水)18.00~20.00
仮題「雲仙普賢岳の避難」