日本機械学会連続講座(NEDO共催)「法と経済で読み解く技術のリスクと安全」~社会はあなたの新技術を受け入れるか~第4回 技術安全のための経済学的思考:インセンティブとガバナンスの視点
【開催日】
2013年10月18日(金)17.30~19.30
【第4回 講師】
岸本充生 (独)産業技術総合研究所 安全科学研究部門
持続可能性ガバナンスグループ研究グループ長
【第4回講演趣旨】
本講演では3つのテーマを取り上げる。1番目は安全とは何かという根本的な問題についてである。1世紀前には技術はそもそも安全なものと仮定され、その後事故が起きてから改良されていった。しかし現在では新規の技術はその安全性を事前に示さない場合はすなわち危険とみなされ、市場や社会は受け入れてくれない。安全に対する価値観が180度変わってしまった。ISOのガイド51では、安全を、受け入れられないリスクがないこと、と定義している。安全は、受け入れられないリスクのレベルを決めないと定義できない。受け入れられないかどうかの判断には、リスクとベネフィットのバランスを考慮する必要がある。ベネフィット概念を安全性の議論にどのように組み入れることができるかどうかについて検討する。2番目は、個人や組織をより安全に向かわせる仕組みについてである。最近では、技術的あるいは規制的なアプローチだけでは限界があることから、ヒューマンファクターや組織要因も含めた安全文化などに注目が集まっている。その中でも、インセンティブ(動機付け)を変えることによって行動変容を促すというアプローチの可能性について検討する。インセンティブは、保険制度や責任ルールのあり方によっても変化する。3番目は、新規技術のイノベーションを、その安全性を確保しながら促進させていくための体制のあり方についでである。両者をバランスさせるという課題について、食品、医薬品、原子力、交通など具体的な事例を紹介する。原子力行政も含めた複数分野における産業振興と安全性確保の間の複雑な関係に焦点を当てながら、最適なガバナンスの仕組みについて検討する。これも、技術革新と安全性確保のそれぞれのインセンティブに関する話題である。連続講座の中では以上のように、ベネフィット、インセンティブ、ガバナンスというキーワードに着目しながら、広い意味での経済学的思考が技術安全にどのように貢献できるかについて議論したい。
【第5回講演】
安全と自己決定権、安全と営業の自由
開催日:2013年11月15日(金)17:30~19:30
第5回 講師 中西準子 (独)産業技術総合研究所 フェロー
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.
なお,本講座は,日本機械学会が,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構のご支援のもと,毎月1回程度の連続講座として,受講料無料で開催するものであり,出席率の高い受講者には,修了証書を付与する.