日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第7回 講演 リスク・コミュニケーションと社会心理学
【開催日】
2014年1月17日(金)17.30~19.30
【第7回 講師】
土田 昭司 関西大学 社会安全研究科・社会安全学部
【第7回講演趣旨】
科学技術は言うまでも無く数学的論理にもとづいている。法や経済もまた、少なくとも古典的な考え方においては、数学的論理にもとづく発想を基盤としている。しかしながら、私たち人間の認知や判断は数学的論理とは別の論理にもとづいている。このことは、心理学者でありノーベル経済学賞受賞者であるカーネマンらあるいは同じくノーベル経済学賞受賞者であるサイモンが経営行動や経済行動における人間の認知・判断の法則性として明らかにしてきた。そして、リスク心理学者スロビックにはじまるリスク認知・リスク意思決定研究においては、カーネマンらやサイモンが指摘する人間の認知・判断の法則性などを、リスク認知・判断に適用した研究がなされてきている。
たとえば、私たちは危険事象の発生確率を個人の経験の強さによって判断している。すなわち、日頃よく経験すること(あるいは、経験していると思い込んでいること)は高い確率で発生するはずであり、日頃ほとんど経験していないこと(あるいは、経験していないと思い込んでいること)は発生するはずがないと判断しているのである。この人間の判断メカニズムは、日常生活の大抵の場面においては、瞬時に低コストで満足解が得られることから有効に機能する。これをカーネマンらはヒューリスティックとして概念化した。しかしながら、新たな技術の社会的導入のような日常生活にはそれまでにはなかった場面などにおいては、経験による発生確率判断などのヒューリスティックは新技術がよりどころとする数学的論理とは相容れず矛盾することとなりやすい。そのようなときには、新技術は社会から受け容れ難くなるのである。
本講演では、人間の認知・判断の特性について概説した上で、リスク・コミュニケーションのあり方について述べる。
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.
なお,本講座は,日本機械学会が,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構のご支援のもと,毎月1回程度の連続講座として,受講料無料で開催するものであり,出席率の高い受講者には,修了証書を付与する.