日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第8回 講演 規制権者としての国の責任
【開催日】
2014年2月21日(金)17.30~19.30
【第8回 講師】
桑原 勇進 上智大学 法学部 地球環境法学科 教授
【第8回講演趣旨】
技術の利用には便益が当然あるが,リスクも伴う.そのリスクが顕在化して損害発生にいたることは,可能な限り防止すべきであるが,技術の発展や利用を不当に阻害することも避けるべきである.この間のバランスをとることが必要である.その際,新技術の利用には,知識の不確実性が伴うことが稀でない.どのような場合にどのような好ましくない結果(損害)が生じるのか不明確な場合にどうすべきかということも問題となる.
さて,技術に対する規制は,基本権の制約となるため,憲法上の限界がある.根拠があまりに不明確なまま規制をすれば違憲となる可能性があるし,必要以上の規制することも問題である.他方で,損害発生の防止という観点からは,なるべく強い規制が,しかも不確実な場合であっても規制をすることが要請されよう.
ところで,国が技術の利用に伴う損害の発生を防止する目的で(広い意味での)規制をする場合,その規制の態様には,トライ・アンド・エラーの容認(損害発生の現実を待って初めて対応を始める)から禁止という極めて厳しい対応までいろいろある.また,知識の不確実性にも程度の相違があろう.リスクが誰に降りかかるのかも状況によって異なる(技術の利用により便益を受ける人にリスクが同時に生じるのか,それとも,技術の利用による便益を享受する立場にない人が一方的にリスクだけを受けるのか).国が規制権者としてどのような場合責任を負うべきか,規制の態様,不確実性の程度,リスクと便益の関係などの事情を踏まえながら,検討したい.そもそも,技術を開発したわけでも利用するわけでもない国がなぜ責任を負うのかという根本的な問題についても,併せて考えてみたい.
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.
なお,本講座は,日本機械学会が,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構のご支援のもと,毎月1回程度の連続講座として,受講料無料で開催するものであり,出席率の高い受講者には,修了証書を付与する.