日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第2期・第2回 講演オーダーメイド医療時代のリスクと安全
【開催日】
2014年6月20日(金)17.30~19.30
【第2期・第2回 講師】
隅藏康一(政策研究大学院大学准教授/文部科学省科学技術・学術政策研究所総括主任研究官)
【第2期・第2回講演趣旨】
生命科学の基礎研究とその成果に基づくライフ・イノベーションの促進は、現在の科学技術政策の主要な課題の一つとなっている。生命科学の成果の中には旧来からデュアル・ユースの危険性があるものが多々存在していたが、近年の脳科学・合成生物学などの進展により新たなリスク要因が生じている。
医薬品・医療行為・医療機器の安全性については、各国で適正に審査され承認がなされる仕組みが動いているが、我が国においてもその制度的欠陥を露呈する事例が散見される。医薬品に関して、これまでは、同じ症状を訴える人は誰もが一律に同じ薬を投与されていた状態(体質に合わない薬を投与されている個人のリスクの基に、大多数の人々のベネフィットが得られていた状態)であったが、到来しつつあるオーダーメイド医療の時代においては、体質に合った薬の投与が受けられる可能性が高まる分、製薬企業にとっては一つの薬あたりの市場が縮小するという状況が生じるであろう。こうした動きと同時並行で、先端医療技術の開発を目指して、基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナル・リサーチが推進されているが、臨床研究に参加する個人におけるベネフィットとリスクについてどの程度のバランスを社会が容認すべきかという課題が残されている。
近い将来には、全ゲノムの解析による遺伝子診断が低価格で簡易的に実施できるようになることが予想され、そうした診断方法の開発の基盤となるバイオバンクの整備もなされつつあるが、これらの過程では、予期せず生じた偶発的所見にどう対処するか、個人情報の流出リスクをいかに避けるか、といったことに対する検討が必要である。
本セミナーでは、以上述べたような事象について、具体的な事例に基づいて説明し、議論したい。また、そうした議論の前提として、規制の存在は発明の創出やイノベーションの実現を促進するか、あるいは抑制するかについての、いくつかの実証的研究の成果も紹介する予定である。
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.