日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第2期・第3回 講演 先進医療技術開発における事前責任とインフォームドコンセント、外科医の観点から
【開催日】
2014年7月18日(金)17.30~19.30
【第2期・第3回 講師】
篠原 一彦 (東京工科大学 医療保健学部臨床工学科 教授)
【第2期・第3回講演趣旨】
わが国における先進医療機器や新薬の開発・導入の障壁には、薬事法などの規制とともに、国民やマスコミなど社会の技術不信が存在する。国産補助人工心臓の臨床試験が欧州で実施され、海外で先行販売されたことは、その一例とされている。日本の研究者と企業は長い研究開発歴と十二分な技術力を持ちながら、心臓ペースメーカなど埋込み型医療機器の大半が輸入品であることも同様の理由である。これは先進医療技術の恩恵に一般国民が享受できないという「デバイスラグ」「ドラッグラグ」なる不利益を発生させた。同時に一定のリスクを伴う臨床試験を他国民に依存するという倫理的課題も、日本国民が負うこととなった。先端技術の開発と実用化には社会の理解と協力が不可欠であるとともに、既存の法律や制度では対応できない課題解決も必要である。安全性と残留リスクを顧客や社会に開示・説明する必要性は、医療においても同様である。従来は医療人各自の流儀と責任で説明されてきたが、インフォームドコンセントという体系化された概念が導入されたのは20世紀後半である。工学でも同様の技術者倫理が「技術者におけるスチュワードシップ」として提唱され、国際規格の理念としても体系化されてきた。先進技術開発に従事する技術者・研究者は、時代の最高水準(state of the arts)の安全対策を実施、第三者評価ののち、残留リスクも含めた十分な情報開示を行なう必要がある。万全の対策もくぐり抜けた事故発生時には、直近の当事者の処罰で一件落着とするのでなく、原因究明のための科学的調査に基づいたシステム全体からの再発予防を行なうことが重要である。講演では、近年の先進医療技術開発の事例紹介とともに、開発段階からの安全対策を医工連携下に策定したガイドライン、コンピュータインターフェイスにおける新たなる課題などについて、関連領域の事例も含めて論じたい。
(700~1000文字程度で,ご講演趣旨をご記入下さい.)
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.