日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第2期・第6回 講演医療系リアルワールドデータを用いた臨床疫学、薬剤疫学、費用対効果研究
【開催日】
2014年12月19日(金)17.30~19.30
【第2期・第6回 講師】
川上浩司 (京都大学 理事補(研究担当) 医学研究科・薬剤疫学 教授)
【第2期・第6回講演趣旨】
医療の進展おいて、ある治療法や看護法がどの患者のどのような状況で有用なのかを観察研究によって評価し、そこで得られた仮説をもとに当該治療を介入とした新規の臨床研究計画を策定し、ランダム化比較試験(randomized control trial; RCT)が実施される。古典的には、このような臨床試験の結果や、さらにそれらの集積としてのメタアナリシスによってエビデンスレベルの高い結論が得られ、エビデンスに基づいた医療(EBM)が実践されるとされてきた。昨今、IT技術の進歩などにより、診療情報を臨床研究に使用することができるような仕組み、レセプト情報や薬剤調剤情報DPCデータなどのデータベースが整備されつつある。そのために、介入を伴う臨床試験を実施せずとも、観察研究デザインでの質の高い疫学研究で、安価かつ迅速により多くの情報が得られるようになってきた。このような研究は医療の向上のみならず、医薬品等の安全性の担保や産業への還元にも役立っている。さらに、医療の提供において、同様の効果がある場合における費用対効果の検討も重要な検討領域となっている。これは計量経済学的手法を疫学と組み合わせて実施され、各国の医療政策においてもきわめて注目されている。EBMや費用対効果研究は総合して医療技術評価(Health Technology Assessment ; HTA)といわれている。本講演ではこれらを概説する。
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.