日本機械学会連続講座「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」第3期・第3回 講演: 九大の水素関連「ヒヤリハット」事象の分析と対応
【開催日】
2015年7月10日(金)17.30~19.30
第3期・第3回 講師: 栗山 信宏(産業技術総合研究所)
【U R L】
http://www.jsme.or.jp/InnovationCenter/nedoproj-lt/
【第3期・第3回講演趣旨】
九州大学伊都キャンパスでは活発に水素エネルギー関連研究が行われている。その中では長時間の燃料電池運転試験や120MPaの高圧水素を取り扱う材料評価試験等これまでに経験のない試験研究に取り組む必要があった。その安全確保のため、産業技術総合研究所における安全管理方法を適用しつつ、水素漏洩警報・ガス遮断システムと24時間監視の実施し、ヒヤリハット報告制度を設け、水素関係設備の利用者には年1回の講習受講が義務付けてきた。まず、九州大学伊都キャンパスの水素関係設備の概要と安全管理の取り組みの考え方について述べる。
2007年度から2012年度にかけて水素エネルギー国際研究センターと水素材料先端科学研究センター(当時産業技術総合研究所所属研究センター)がNEDO事業「水素先端科学基礎研究事業」を受託したことに伴って安全衛生に関する取り組みを行った中で、83件のヒヤリハット報告があり、報告内容に基づいた安全衛生会議で議論と情報の展開が行われてきた。事業の終了にあたり、異常が発生した機器・実験内容や取り扱い圧力だけでなく、取扱者の経験度、職位、外部業者の関与、故障かヒューマンエラーか、規則無視か否か、発生時期など、ヒヤリハット事象の背景となる要因の観点から分析し、水素を取り扱う研究機関における特徴と課題を抽出した。この結果に基づき、新規事業の安全な推進に向けて、熟練者におけるヒューマンエラー、特に、規則・手順の無視によるヒヤリハット事象の多さ、卒論時期における学生のヒューマンエラーの多さ、外部業者との連絡不備による事象の多さ、高圧作動時の直接操作の危険性とOリングシール関係への注意の必要性を強調した教育への取り組み等について実際の分析結果と安全教育の内容を含めて述べる。
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.