イブニングセミナー(第134回) 広島原爆後の「黒い雨」はどこまで降ったか ―「黒い雨」を追って半生―
【趣旨】
技術はいま,資源,環境問題をはじめ,巨大化とブラックボックス化による人間疎外の傾向に関して多くの批判にさらされている.技術が受け入れられて発展するのも,拒絶され衰微するのも,また技術者の社会的地位のあり方も,社会との深い関わりの中にあることは明らかである.われわれが新しい時代を担う責任ある技術者であろうとするならば,人間についての深い洞察を持つとともに,社会の動きを正しく見極めなければならない.技術と人間,技術と社会の関わりについて現状を理解し,将来を展望することを目的とする.
【テーマおよび講師】
私は気象研究所を退職した翌年の1985年6月,『核の冬―核戦争と異常気象』を上梓し,その直後の8月,原水爆禁止世界大会に参加した.全面核戦争による「核の冬」が大問題になっていた時で,核兵器廃絶運動は大きく前進したが,その反面,「核の冬」を起こさない小型の核兵器を容認する動きが出ていた.
そこで私は広島や長崎に投下された小型の原爆でも大変な被害をもたらす上に,環境も壊すとして,宇田道隆氏らが調査した広島原爆の後の「黒い雨」の話をした.
すると,広島の被爆者の方が,「宇田氏らの調査には迷惑している」という発言をされた.驚いて「それはどういう意味ですか」と尋ねると,「あなたは気象学者でしょう.『黒い雨』のような激しい雨があんな卵形の領域にきれいにまとまって降ると思いますか」といわれた.私は頭を殴られたような衝撃を受け,宇田氏らの「雨域」を鵜呑みにしていた自分を恥じ,「私の責任で調査しましょう」と,再調査を約束した.これが,私が「黒い雨」を再調査したキッカケで,調査の結果,宇田雨域の4倍も広く,しかも,卵形とは似てもにつかない複雑な雨域を発表した.
戦後40年も経っている中で,どのようにして調査をしたか,その調査結果が,原爆症認定裁判にどう貢献したか,などについて述べる.
【講師】
増田善信(もと気象研究所研究室長)
【懇親会】
高田馬場駅前の土風炉(とふろ)にて,講師を囲んで懇親会を行います.会費3 000円程度.
【次回予定】
2011年1月26日(水)18.00~20.00
仮題「訪問リハビリ」
講師:仙洞田 洋登((株)ウィズケアメディカル 取締役)