イブニングセミナー(第136回) 「行間の宇宙」への挑戦
【開 催 日】
2011年3月30日(水)18.00~20.00
【趣 旨】
技術はいま,資源,環境問題をはじめ,巨大化とブラックボックス化による人間疎外の傾向に関して多くの批判にさらされている.技術が受け入れられて発展するのも,拒絶され衰微するのも,また技術者の社会的地位のあり方も,社会との深い関わりの中にあることは明らかである.われわれが新しい時代を担う責任ある技術者であろうとするならば,人間についての深い洞察を持つとともに,社会の動きを正しく見極めなければならない.技術と人間,技術と社会の関わりについて現状を理解し,将来を展望することを目的とする.
テーマおよび講師
私達,演奏家は「再現芸術家」と呼ばれています.歴史上の数々の天才が遺した数々の作品を聴衆に向けて演奏し,『感動』を与えることが,私たちの仕事です.21世紀を生きる今日,私達演奏家はもちろん演奏にあたり,多くの作品を生んだ天才達(=作曲家)に,「質問」や「確認」を直接訊くことなどできません,したがって,この数々の天才が「五線譜」の中に,限られた「書法」で遺した『暗号』ともいえるヒントから,その作曲が「書いたもの」ではなく「書きたかったもの」を演奏することが私達の仕事です.
「ラブ・レター」を書くときに,どんなに「いかに貴方を愛しているか?」をどんなに言葉を尽くしても,「愛する心」全てが書き表せない経験は一度ならず,どなたにも経験があるかと思います.現在でも使用されている五線譜を利用した“記譜法”は,数々の天才達の頭の中に描かれた世界を,それを演奏する人に伝える為には,彼らにとって,全く頼りない,かなり制限された言語だったのです.
技術の発達による,楽器の進化,印刷技術の進化,などにより大量生産された楽譜のなかに埋もれた,作曲家が「真に意図したもの」を検証してゆく再現芸術の中での指揮者の役割とは,何でしょうか?
私の周りの多くの方々がよく,「オーケストラは本当に指揮をみているのですか?」と訊かれます.私が指揮をする世界のオーケストラは,演奏のプロの集団,それぞれの楽器の演奏には,深い知識とそれにともなう鍛錬を積み重ねてきた,名手(=マイスター)達です.そのマイスターたちにとって指揮者という存在は,「野球の監督」「会社の社長」に似ているといわれます.よくテレビで某指揮者が某オーケストラを指揮するリハーサル風景などが見えることがあります,それはまさに“「松井秀喜選手やイチロー選手」に打撃についてアドヴァイスやリクエストをする”ようにも見えます.
閑話休題,人生の本当にある瞬間,予想を超えたところで出会う人がいます,その出会いは年齢,仕事,経験を超え,その瞬間に「朋(とも)」となってしまう場合があります.私にとって小西先生との出会いはそのようなものでした.その「朋」からオーケストラにおける「個と集団」の関係について話してくれませんか?と依頼されました.実は感動は「オーケストラと聴衆の間に生まれ」,私とオーケストラは「個と集団」ではなく「一つの有機化合物」ともいえるエネルギーの塊と私は信じています.しかしながら「その至福の瞬間に達するまでの創造過程に先生からいただいた「お題」!の回答があるかもしれません.
通常は指揮台で聴衆に“背を向けて”仕事をしている私が,皆様を前にしてどのようなお話ができるのやら・・よくわかりませんが,私のあくなき『行間の宇宙』への挑戦についてお話を楽しんでいただければ幸いです.
【講師】
山田 敦(ニューヨーク・シティ・オペラ指揮者)
【懇親会】
高田馬場駅前の土風炉(とふろ)にて,講師を囲んで懇親会を行います.会費3 000円程度.
【次回予定】
2011年4月27日(水)18.00~20.00
(仮題)「事故と技術者のリスクマネージメント」
講師:中村昌允(東京農工大 教授)