一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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<会員の海外との交流活動の紹介>モンゴル国高専学生の就労支援の取り組み

コロナ禍での日本企業でのモンゴル人高専生の奮闘

中西佑二〔都立産業技術高専名誉教授・博士(工学)〕

福田誠〔長岡高専名誉教授・工学博士〕

木村智博〔筑波大学附属視覚特別支援学校理学療法科・博士(環境学)〕

 

1.はじめに

モンゴル国の高専学生の日本でのインターンシップは報告(1)しているが、ここでは新型コロナウィルス禍での奮闘を扱い、現在では日本企業に就職し、日本の高専本科、若しくは専攻科に留学する者が数十人規模になり(2)、各自治体や日本の中小企業、高専機構の協力に感謝して一層の発展につなげたい。

ただ、就職したてのモンゴル人が新型コロナに感染し、我々は衛生教育をした。また、次節で紹介する事例では会社ぐるみでリスクマネジメントを行い、モンゴル人社員も以下のような高度な内容の日本語を理解するに至り、技能実習生の労働衛生の向上に資すると判断し、投稿した。

 

2.空調関連企業での取り組み例

東京都大田区で1970年代から創業の空気調和・衛生設備の設計と施工管理を行う中小企業では2017年からモンゴル人のインターンシップ生を受け入れ、社員登用による人材育成が2022年夏時点で続いている。背景として、就労後も高専のOB・OG主催による定期的なフォローアップと月1回のビジネスや技能研修を想定した日本語トレーニングが奏功している。

登用されたモンゴル人は大学進学や就労ビザ申請の要件になる日本語能力試験2級を既に有し、英語も使える。以下に示す社員は2021年に採用され、主に学校建築の現場測量等をこなし、先輩社員や取引先、役所関係者から評価されている。なお、日本語能力試験2級の難易度は、「幅広い話題について書かれた新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論等、論旨が明晰な文章を読んで文章の内容を理解できる」、「日常的な場面に加え、幅広い場面で自然に近いスピードのまとまりのある会話やニュースを聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係を理解し、要旨を把握できる」であり、高卒以上の日本語能力相当である。

写真1に関連し、建築衛生や給排水設備で、便器や洗面台は次亜塩素酸ナトリウム(塩素300ppm以上)で浸したペーパータオル等で拭く点を正確に認識し、着実に成長している。月1回の勉強会では即戦力を重視し、例えば次亜塩素酸ナトリウムはノロウイルス、サルモネラ菌、チフス菌、大腸菌等に有効で、吐瀉物処理にも使用されると説明をしている。

写真1のモンゴル人社員は 写真2と写真3の業務にも従事し、室内環境について建築基準法や測量、建築写真の手法を体得しつつあり、モンゴル人の勤勉さが浮き彫りになっている。

写真1 新設便所機器の水出し

 

3.その他の取り組み例(2)

本邦でのモンゴル人高専学生のインターンシップ受け入れは2017年から続き、コロナ禍でも参加者が増え、今では地盤関連コンサルタント(3)、中堅ゼネコン、地質調査業、電気工事や工作機械メーカー、CAD、さらには義歯製作や介護関連業に就労している。ここではコロナ禍を踏まえ、医療面から捉える。

土木學會誌では約20年前に高野健人 東京医科歯科大学教授へのインタビュー「外から見る土木 第2回:悩める都会人と土木」が掲載され(4)、「ラッシュがない都心」「車椅子でどこへでも行ける」「ゴミがない世界」を軸に、農村医学の提唱者でJA長野厚生連佐久総合病院総長を歴任した若槻俊一と同様、予防、コミュニティー重視の点で土木と関連する。

 

写真2 検査状況

写真3 写真撮影

 

新型コロナでは肺炎予防の口腔ケアの重要性が語られ、口腔内微生物起因の肺炎が取り上げられている。インターンシップを経たモンゴル人2名は義歯製作に携わり、Streptococcus pneumoniae(肺炎連鎖球菌),Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌),Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)が口腔衛生で重要であることを認識し、義歯の取り扱いとその種類を勉強中である。

 

表:義歯に関する用語

◆クラウン(歯の被せ物):「銀歯」と呼ばれ、歯の形や機能を回復する。

◆ブリッジ:歯の無いところに歯の形と機能を回復するために、残っている近くの歯に橋脚の役割を求め、橋のようにつなぐ。

◆総義歯(入れ歯):歯が1本も無くなった場合の入れ歯を指す。

◆局部義歯(部分入れ歯):失われた歯の部分の機能を回復するため、残っている歯や顎などを支えに、歯の形と機能を回復する。

◆インプラント:顎の骨に支柱を植え、それを支えに歯の形と機能を回復する。

◆矯正装置:歯並びや顎の位置がずれている場合に、適切な位置にするための装置です。取り外しができるものや、歯に直接取り付けるものがある。

◆エピテーゼ:生まれつき、または病気や事故によって失われた顔や体の一部を、人工の材料を使って形態を補う。

この2名も定期的な勉強会に出席し、業務経験を日本語で披露し、歯科関連の事項をプレゼンできている。例えば歯周ポケット内の細菌の同定に用いるグラム染色法(細菌を色素で染め分ける方法の一つで、細菌分類学の基礎になり、デンマークのHans G.j. Gramによって1884年に考案)や睡眠時無呼吸症候群の確定診断に用いられるポリソムノグラフィ(終夜睡眠ポリグラフ検査)、抗菌薬やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬、Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsは抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称)の有害作用で高熱と粘膜の紅斑を伴う重症薬疹を特徴とするスティーヴンス・ジョンソン症候群等、医療系学生の間で話題になる事項を説明でき、頼もしさを感じた。

4.まとめ

本稿ではモンゴル人高専学生のインターンシップ受け入れから日本の高専への進学、企業への就労の支援の流れを記した。日本人社員と同様、専門的な話題や技術修練に対応出来るレベルに成長し、受け入れ規模と他の国々との人材交流を目指している。そのためにも、本会会員の一層の関心に期待する。

日本語コミュニケーション技法、専門的話題、ビジネススキル等の定期的な研修で、モンゴル人への支援になり、離職率低減につながる。インターンシップ実施側や支援側には高専関係者が加わっているが,より幅広くは本会の懐の深さに期待する(5)。少子高齢化が言われる中,モンゴル人が概して勤勉で,衛生意識が高く日本人にも示唆を与え(6),高度経済成長期の日本人社員を彷彿させる。礼節を重んじ,災害時に陥りがちな我田引水にノーと言え,防災と健康面から予防医学・公衆衛生に腐心し(7),見習いたいものである。

 

参考文献

(1)福田誠,木村智博:モンゴルでの日本式高専教育普及の試み,土木學會誌.Vol.103.No.2.pp.56―57.2018.

(2)The Asahi Shimbun GLOBE∔:朝ドラ好きの少女、モンゴル高専から日本の会社へ 中小企業を支えるKOSEN卒業生.2022年6月19日付日曜特集.

(3)福田誠,岩下渓,木村智博:モンゴル人学生に対する日本式高専教育の実践,地盤工学会誌.Vol.67.No.6.pp.36―37.2019.

(4)https://www.jsce.or.jp/journal/soto/200206.htm.2022年7月29日閲覧.

(5)日本機械学会誌特集テーマで例えば,国産手術ロボット研究研究開発の最前線~その実現を目指して~(2017年9月号),細胞培養時代の機械設備(2020年5月号),人間を拡張する機械(2020年6月号),withコロナにおける新たな生活様式を支える技術(2022年7月号),少子高齢化社会を支える革新技術の提案(2023年3月号)等が挙げられる.

(6)伊丹理雄:回顧2023コロナ―5類移行後も高い衛生意識―,讀賣新聞朝刊.2023年12月27日.

(7)横田裕行 監修:『災害医療2020―大規模イベント,テロ対応を含めて―』.日本医師会雑誌.Vol.149.特別号(1).2020.