一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.158 台湾の社会人学生
2017年度財務理事 川端 信義[金沢大学 教授]

2017年度(第95期)財務理事
川端 信義(金沢大学 教授)


私の研究室には台湾人の博士後期課程(ドクターコース)の社会人学生が9名在籍しています。

一部の大学を除き、たいていの大学はドクターコースの学生確保に苦しんでいるところですが、数年前から定員の70%以上という条件が出され、さらに収容率90%以上という条件も示され始め、何とか対策をと言うことで思いついたのが外国人の社会人ドクター生でした。親交のあった台湾中央警察大学消防学科の簡教授、沈教授に相談したところ、あれよあれよという間に9名も集まりました。社会人学生ですから留学生ではなく、台湾に在住し仕事に従事したまま金沢大学のドクターコースの学生として勉学・研究に励んでおり、年に2,3回来学し、集中して授業および研究指導を受けています。中央警察大学は上級国家公務員を養成する大学で、彼らのほとんどがマスターコースを修了した現役のエリート消防官です。300人以上の部下をもつ大隊長(コマンダー)もいます。年に2,3回程度は来学するのですが、それだけではとても足らないので、必然的に私が台湾に出かけてミーティングをすることになり、昨年は10回台湾に出かけました。学生は北部の台北周辺に5名、南部の高雄周辺に4名いるので、土日を含んで4泊5日で台北、高雄を訪問します。彼らは3年生になり、研究が思うように進んでいるわけではないのですが、誰も脱落することなく続けています。脱落しそうになっても、さすが消防官、極めて強い団結力で助け合っています。

消防官が機械工学科で何の研究を行っているのかと疑問を持たれるかと思いますが、彼らの研究は自動車トンネルにおける火災防災に関するもので、トンネル閉空間内で発生した煙を制御し、人が避難できる環境を維持することをテーマとしています。台湾の西側は南北に縦断する新幹線が通っており、交通網の整理はかなり進んでいますが、東側は断崖絶壁の難所で、東海岸側の発達の障壁となっています。ここに自動車トンネルを掘り、西と東を結ぶ横断道路、東海岸沿いに南北を結ぶ縦断道路の建設が進められています。既に2006年に台北と東海岸を結ぶ高速道路(横断道路)が開通し、当時高速道路としては世界一長い雪山トンネル(12.9km)の運用が開始されました。このような超長大トンネルの運用経験がなかったので火災事故を懸念し、通行できるのは小型車のみとし、最高速度は70km/hでしたが、現在はバスの通行が許可され、最高速度は90km/hに引き上げられました。この横断道によって、従来は2時間かけての山越えだったのが30分に短縮されました。東側の宜蘭は温泉もあるリゾート地なので台北からの行楽客で土日は大渋滞するそうです。今は多くのトンネルが断続する縦断道路の建設中で、学生たちの研究が安全安心な交通網の実現に役立ってくれるものと期待しています。

さて、何度も台湾を訪問して、いろんなことに遭遇しました。まずは2015年12月に台湾南部で高雄市を震源とする大きな地震の遭遇したことが挙げられます。台南市のアパートが倒壊し多くの方が亡くなったことで、日本でも大きく報道されました。当時、高雄のホテルに宿泊中で、早朝の大きな揺れで飛び起きましたが、何もできなかったことを覚えています。その前日は、高雄の救助犬訓練センターで学生とのミーティングをし、地震当日も引き続きミーティングの予定でしたが、当然、学生たちは出動でミーティングは無し、救助犬も出動し、何日も帰れなかったと後で聞きました。こちらは消防(学生)の的確なアドバイスで、その日の内に台北へ戻ることができ、さほどの影響は受けませんでした。学生たちに感謝です。2014年8月には、道路地下に設置された可燃性ガスのパイプラインの大規模な爆発事故で何人かの消防士が亡くなりました。当日、入学前の説明のため高雄に向かうことになっていたのですが、中止になりました。その他にも、台風で足止めは何回かありました。台湾は勢力の強い台風が普通に来るので、停班停課と言い仕事も学校も休みになることが年に何回かあり、祝日の少ない台湾では楽しみにしている人は多いそうです。

多くの大学で前期課程は定員超過で後期課程は定員を大幅に下回るといったいびつな状況が続き、入学者を前期課程については減らすように、後期課程では増やすようにとのプレッシャーが強くなり、大変な苦労をされていると思います。根本的な解決ではないでしょうが、後期課程に関しては外国在住の外国人社会人学生の可能性も一つの対策と思います。大変ですが、アクションを起こすと意外に多くの学生が集まるかもしれません。ただし、彼らのサポートには予算的にも体力的にもかなりの負担がかかります。一方で、海外の学生たちとの付き合いは楽しく、違った世界も広がる気になるので、体力と予算が潤沢にあるような場合にはお勧めです。