一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.168 名もないコーヒーの話
2018年度副会長 梶島 岳夫[大阪大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2018年度(第96期)副会長
梶島 岳夫[大阪大学 教授]


コーヒーの愛好家には、産地や銘柄、あるいは煎り方・挽き方・淹れ方について一家言をもつ通人が少なくないようです。しかし、木を育てるところから豆を収穫するまでを体験した人は稀でしょう。

一昨年、観葉植物の売り場で「コーヒーの木」という札のついた鉢を見つけました。威勢がよかったのでさっそく購入し、居室で南向きの窓際、ブラインド越しに置きました。肥料を与えることもなく、土の表面が乾いたら水をやる程度でした。苦労と言えば、薬剤を使わずにカイガラムシのような付着物を根絶したことくらいです。昨年3月のある日、出勤したら部屋にジャスミンに似た芳香がただよっていて、コーヒーの木に白い花が咲いていました(写真1)。やがて11月にはコーヒーチェリーとよばれる赤い実になりました(写真2)。収穫してから、果肉を除いて内側の固い果皮を取り出し(写真3)、さらにこれを割ったら一対の豆がでてきました。通信販売で求めたコロンビアの生豆と比べるとずいぶん見劣りするものの、まぎれもなくコーヒー豆です(写真4)。収穫した約30粒だけでは質・量とも不十分と考え、コロンビア・エメラルドマウンテンとブレンドして研究室スタッフ5名で賞味しました。どんな高級銘柄よりも美味でした(と思いたい)。


写真1: 2017年3月21日

写真2: 2017年11月5日

写真3: 2017年11月13日

写真4: 右はコロンビア

ここまで読んでその気になってしまった方にいくつかご注意を。まず、相当な勢いで水を吸います。数日以上の出張中は水やりを頼んでおくこと。また、葉から油分が滴り落ちることがありました。葉の下に機械や書類を置かないこと。くれぐれも拙著を鉢の下敷きにしないでいただきたい。

その後、木は一回り大きくなりましたが、早々と桜が咲いた今年はなぜか5月中旬というのに花芽が出たばかりです。この不規則性は今後も十分に楽しめそうです。さらに、二度目は増収も期待できそうです。日常の研究や教育とは全く異なる時間スケールで徐々に成長するものが傍らにあるのはたいへん良いことです。

筆者はコーヒーの中毒や依存症というほどではありませんが、以前からさまざまな生豆を入手し、焙煎して楽しんでいました。しかし、豆の種類による味の違いには鈍感で、半可通の常用者に分類されるでしょう。経験的には、カタログに説明されている産地や銘柄ごとの違いよりも、同じ銘柄であっても購入するたびに粒の大きさや色合い、欠陥豆の混入割合が時期によって違う方が気になるくらいです。あまり高価な豆を選ばないので不安定なだけかもしれません。

アマチュアとしては、書物やカタログの知識よりも、花から実になり、収穫できるまでを観察して知ったことの方が身に染みたように思います。同様に、出来合いのハードやソフトを使うより、自分で作った装置やプログラムからデータを取り出すことの方が有意義であるに違いありません・・・と、この欄は機械工学に無関係な話題だけで終わってはまずいのではないかと少々不安になり、苦し紛れの結びとします。一方、コーヒーについては、焙煎機に頼らず、機械化率をゼロにする計画です。