一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.169 第96期会員部会の取組み
2018年度庶務理事 大曽根 靖夫[(株)日立製作所 統括技術主管]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2018年度(第96期)庶務理事
大曽根 靖夫[(株)日立製作所 新エネルギーソリューション事業部 統括技術主管]


第95期に引き続き、庶務理事を拝命しております。

庶務理事の管掌する部会として、会員部会があります。本部会では、会員数の漸減傾向に歯止めをかけ、学生員から正会員になる世代の方や企業に所属する正会員の退会率を下げ、また、特別員の会員メリットをどう高めるかという議論が進められてきました。講演発表者資格の見直しや、新社会人向けの会費低減、特別員への講演論文集の無料閲覧特典などの施策の結果、95期では、会員数の低下傾向が一旦ストップしたというのは、記憶に新しいところです。これらの施策と並行して、特別員を含む会員の皆様に対し、会費相当以上の価値を継続的に提供するにはどうしたらよいのか、あるべき姿を引き続き模索していくことが大きな責務であると考えます。

会員部会と関連する活動として、若手の会、学生員委員会、LAJInternational Unionなどがありますが、これらの活動は、機械学会の活動や会員の多様性を高めることへの大きな貢献が期待されるとともに、今申し上げた「会費相当以上の価値の提供」という命題を、当事者自らがボトムアップで検討する場として、大変重要な役割を負っています。例えば、若手の会は、96期から常設委員会となりましたが、委員会の開催場所を毎回変えて、委員の所属する企業や研究機関の施設を訪問するなどの活動を進めており、委員相互のコミュニケーションの活性化と、フランクな議論の場の構築が進み、若手研究者・技術者にとっての機械学会のあるべき姿と、そこにいたる道筋が見えてくることが期待されます。

ところで、「会費相当以上の価値」と言われて、会員の皆様はどんなことを想像されるのでしょう。お恥ずかしい話ですが、私の場合、大学の専攻が機械工学ではなかったこともあり、職場に配属されてから、上司に言われて会員になったのが実情です。もう25年以上前の話ですが、以降、複数の学協会の年会費を、毎年、お小遣いの範囲で捻出するのは大変だなと思うくらいで、会員に対する価値などということを考え始めたのは、数年前に初めて代表会員を拝命した頃のことです。

考えてみれば、学生員の方が、大学や公的研究機関の機械系の部門に職を得るとか、学術団体の活動に理解のある企業に就職して、機械系の研究開発に携わることになれば、ぜひ正会員になっていただきたいという議論には意味があって、上記のような各種の取組みを通じて、学生員から正会員になった若手の方や、学生員か正会員かを問わず、女性会員や、海外出身の会員の方に活躍いただける場を考えていくことは喫緊の課題と言えます。それに対し、機械系の技術と関係のない仕事に就かれた方に「正会員になってください」とお願いするのは、正直に申し上げれば、些か無理な話になります。従って、専門分野として機械系の仕事をしてはいるが、機械学会の会員ではない人までが、会員増強の議論の対象の範囲に含まれることになり、そういう方に「機械学会に入っていると、こんなによいことがありますよ」という提案が本当にできるのかが、「価値」の議論につながると考えます。

実際、「価値」と口に出すのは簡単ですが、年齢や、専門分野における経験の長さ、所属する組織と学術団体のかかわり、組織における立場や仕事の内容によっても、「あえて日本機械学会に会費を納めてでも手に入れたい」知識や経験は異なって当然です。今のところ、その中の最大公約数的なものとして、講演発表者資格の見直し、会員優先の各種イベントや情報提供、分科会や研究会、委員会などの活動などの施策や、組織運営や活動への参画を通じた人脈の形成などを期待しているわけです。しかしながら、それだけやっていても、「いつも同じような議論をしているよね」というご指摘を受けることもあるわけで、誰もが「いいね」というような知見や経験の提供は、なかなか難しいのだなあと感じています。

少し下世話な話としては、年に一度、会費の請求が来るから迷いが生じるのであって、希望があれば会費を月払いにして、クレジットカードで引き落とせないかということも、部会として検討したいと考えています。正会員であれば、月に800円というのと、年に9,600円一括というのとでは、どちらがより負担感が少なく、「まあ、いいか」と思える金額ですか、という程度の話ではあります。機械学会の活性化とは関係もなく、正攻法の取組みではないとのご指摘も、当然あると考えますが、利便性の高い、支払いやすい会費のいただき方というのも、検討してもよいのではないかと思います。もちろん、キャッシュレス化に伴う学会の負担増があるとしても、ということになりますが。

話を会員部会関連の活動に戻しますが、先日、若手の会では、人工知能学会の若手であるAI若手の会と座談会を開催しました。詳しい情報は、機械学会誌の9月号の特集企画として紹介される予定ですので、是非ご期待ください。座談会の内容以外で注目すべき点として、人工知能学会の場合、会員数の増加が続いているということが挙げられます。現在は第3次AIブームを迎えていると言われているそうですが、研究や産業応用のブームが長期に続くと期待される分野では、会員が減るという心配をする必要がないようです。機械学会の場合も、ある講演会の出席者数は非常に多く、講演発表者資格を見直した95期は、学生員の月別入会者数のピークが卒業研究発表以外の時期にもあらわれています。この動きは大きなヒントになるもので、新しい技術のトレンド、ブームを興していく、あるいは、その兆しを貪欲に吸収していくことが、日々変わっていく「価値」を継続的に提供することにつながるのかもしれません。

一方で、モノづくりの現場においては、現場に足を運んで、現物を直接手にとり、現実と自分の目で捉え、原理・原則に基づいて、起きている現象を理解することが極めて重要であり、現象の理解には、いわゆる4力学の知見が必須になります。最近は設計環境のデジタル化、三次元化が進み、便利な評価解析ツールも増えていますが、だからこそ、例えば数値解析で得られた結果が、ある不確かさの範囲で蓋然的に正しいか判断できる感覚が重要で、それには基礎的な知識を経験知として持っているかいないかが、決定的に重要な気がします。

同じ「機械」系の専攻の出身でも、学校を卒業して社会人になって初めて携わる「モノ」が、学生時代からの専門そのものという研究者やエンジニアはむしろ少数派で、多くは、おおよその分野は同じでも、厳密には初めての「モノ」に携わるのではないかと思います。であるとすれば、上記のような感覚を持つには経験が必要になりますから、その土台となる基礎的な知見を早く身につけることができるような学術講演会や講習会の提供というのは、学会の活動として期待の高いものになると思います。

雑駁な話になってしまいましたが、変化を続ける新しい価値と、普遍的で基礎となる価値の双方をバランスよく提供し、会員の利便性を高めていくことが、「会費相当の価値」につながるのかもしれず、それはやはり、古くて新しい課題のように思います。「いつも同じ議論をしている」ことが、いつもホットな課題を捉えて議論を継続していることになるよう、96期の会員部会の議論も深めていきたいと考えています。