一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.176 難しいものを、より易しく

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2018年度(第96期)財務理事
寺井 元昭[東海旅客鉄道(株)常務執行役員]


超電導リニアの開発に携わっていると、いろいろな場面で技術を分かりやすく説明することが求められます。鉄道とは言っても、特殊鉄道のカテゴリーに分類されて超電導磁気浮上式鉄道という難解な正式名称をいただいており、空飛ぶジュウタンのようなファンタジーをイメージされる方がいますし、リニアがリニアモーターカーの愛称由来であることも意外に知られていません。超電導、と言った途端「それは分からない」サインが出ることがありますし、超電導磁気浮上と言ってもマイスナー効果は使っていないことも丁寧に説明しないといけません。

〇「高速鉄道物語」

20年前に日本機械学会編で「高速鉄道物語」が出版されました。新幹線を中心とした日本の高速鉄道技術を知っていただくための一般向け書籍です。私は依頼されて「リニアモーターカーの未来」の章の執筆を担当しました。当初自分なりに「中学生でもわかる超電導リニア技術解説を目指す」と目標を決め、意気込んで原稿作りに取り掛かりましたが、文章と挿絵だけで技術を正確に分かりやすく説明するのはとても難しい、ということはすぐに分かりました。

超電導リニアが磁気浮上して非接触でリニアモーター駆動走行する、という基本原理も、超電導、電磁誘導、リニアシンクロナスモーターなどの用語を使って説明すると実に簡潔なのですが、多くの一般読者にとっては馴染みがないと思い、基礎の説明に重点を置きました。今改めて読み返すと、基本原理の説明に紙幅を割き悪戦苦闘したものの、かえって回りくどくなり意気込み通りには行かなかったように思えます。イラストを多用すれば良いのは分かっていたのですが、絵心の無い身にとっては無理な相談でした。

専門用語を駆使して正確で簡潔明瞭な説明を行うことは重要ですが、プロの技術者を対象とする場合でも、お互いの技術的バックグラウンドが異なっていると、正確な理解が得られるかどうか不安が残ることがあります。また部品やソフトウェアを製作するときには、注意深いコミュニケーションによってプロジェクトチームの認識の一致を図ることが、思いもよらぬ製品が出来上がってくることを回避する重要なプロセスとなります。

改めて、超電導リニアの基本原理や環境条件、使用条件を分かりやすく説明するスキルの必要性を痛感しています。

〇難しいものを平易に説明するスキルの探究

これまで自分なりに編み出してきたスキルは例えば次のようなものです。

①物理・化学や数学の領域に踏み込まず、理科、算数の世界で語る

例えば超電導現象を量子力学から説き起こそうとすると、まず自分自身が説明不能に陥るので、電気抵抗がゼロになる不思議な現象、からスタート

②人文科学的アプローチも有効。技術発達史から入っていくのも分かりやすい

超電導はヘリウムガス液化実験の成功に伴って発見された、など

③広く理解されている現象に落とし込む

電流の間に働く力ではなく、磁石のN極、S極に働く吸引力、反発力で説明したり、リニアの浮上・着地の説明に航空機の離着陸の例えを用いる。場合によっては、厳密性を犠牲にした大胆なアナロジーも可

④馴染み深いものを物差しや比較対象にする

新幹線と比べて大きい/小さい、新幹線の制御システムや安全システムと比較、など

そしてこれが実は一番大切なことかも知れませんが、自分自身が良く分かっていないこと、あいまいに理解していることを語ってはいけないということです。リニア技術を語りながら、実は自分自身よく分かっていなかったことに気づくこともしばしばです。当然と思ってきたことを改めて勉強しなおすと、さらに深い技術の本質が見えて来ることもあります。

難しいものを、そして簡単なことでも、より易しく説明するスキルを求めて、勉強と探究を重ねる日々です。


参考文献 「高速鉄道物語-その技術を追う-」 (社)日本機械学会 編 成山堂書店(1999年6月)