一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.177 日本の伝統芸術「きもの」
2018年度広報情報理事 大野 恵美[(株)IHI 主査(課長)]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2018年度(第96期)広報情報理事
大野 恵美[(株)IHI 主査(課長)]


2年ほど前に着物の着付け学校に通い始めました。オリンピックに向けて何かできることはないかと考えていたとき、ちょうど結婚式に出席するため着物を着付けてもらったのが学院との出会いでした。自ら着物を着て、オリンピックで日本を訪れた外国人に着物を着付けることができたら、喜んでいただけるのではないかと思ったからです。入学後、校長先生からお話を聞く機会がありました。学院は日本の伝統芸術のひとつである「きもの」を後世に伝えることが使命です。生徒のみなさんも着物文化を伝える一人です。オリンピックは着物を世界に伝えるチャンスです。私はその話を聞いて、賛同し、気持ちは盛り上がっていきました。実際には、着付けできるようになるまでの道のりは長く、今できることはそのお手伝いをすることです。例えば会場で案内をしたり、足袋をつけるのを手伝ったり、まだまだ修行見習い中です。

それでは2年でどこまでできるようになったかというと、着物国際免許と上級師範という免許をいただきました。海外で着付けを教えたり、自宅で着付け教室を開いたりすることができます。そうはいっても、まだまだ技能が免許に追いついていないので、今も毎週、着物を着て学院に通っています。本来着付けはそれほど難しくはなく、何回か練習すると自分で着られるようになります。少し前までは、お母さんやおばあさんなどに家庭で教えてもらうのが普通でした。しかしだんだんと家庭で教えるという文化が薄れてきたため、着付け学校で学ぶという時代になってきたそうです。難しくないとはいうものの日常的に着ることはないので、しばらく着ていないと忘れてしまい、先生のように美しく着られないのです。手順の一つ一つにコツがあるのですが、コツを忘れてしまったり、つい手順を飛ばしてしまったりしてしまいます。繰り返し練習するのみなのです。技能を伸ばすために、実技テストや浅草公会堂での着付けコンテストも用意されています。テストやコンテストの前には特別授業で特訓です。実は今日もコンテストの予選会でした。お題は振袖の着せ方と末広(帯結び)です。制限時間は7分で仕上げていきます。前日の練習ではなんとか制限時間内に見た目もそれなりにできていましたが、本番は散々な結果でした。練習不足は否めません。

生徒さんはほぼ女性ですが、年齢層はとても広いです。それぞれ目的はさまざまですが、ただ着物が好きということだけは共通しています。授業以外にも、明治神宮まできものウォークをしたり、渋谷盆踊り大会に参加したり、幕張メッセで勉強会という名の販売会に参加したり、四季を通してイベントが目白押しで、週末も休む暇もありません。授業料は安くはないのですが、年齢を越えたお仲間と、特訓に汗を流したり、イベントに参加してはしゃいだりと、職場とも家庭とも違う環境を楽しんでいます。

着物についても少しお話しましょう。糸を染めてから織る織物と、織ってから染める染物があります。代表的なものとして、前者は西陣織や大島紬など、後者は京友禅や江戸小紋などは、耳にしたことがあると思います。風合いや手触りも楽しみの一つですが、西陣織は応仁の乱の西陣を拠点に始まったということ、大島紬は奄美大島の植物と泥から生まれる色合いが特徴であること、友禅は京都の扇面絵師の名前であること、江戸小紋は鈴鹿市で作られる伊勢型紙を使っていることなど、地理や歴史と織り交ぜて学ぶとさらに愛着がわいてきます。

絹の反物を後染めするのは難しいようで、今でもインクジェットプリンタを利用することはほとんどないようです。江戸時代に色の境界に糊をおきその内側だけを染める友禅染めが確立し、絵画的表現ができるようになりました。室町時代には、染めたくない部分を糸で絞って覆い周りだけを染める絞り染めが主流でした。絞り染めは友禅染めに比べると手間がかかるため衰退していったそうです。しかし、その絞り染めの代表手法である辻が花を元に、20世紀に一竹辻が花を完成させた久保田一竹の作品は圧巻です。全80連作の着物で四季・海・宇宙を表現しようとする試みには驚きました。今はその遺志をお弟子さんが継いでいるそうです。(http://www.itchiku-tsujigahana.co.jp/

日本機械学会は七夕の中暦にあたる8月7日を「機械の日」、8月1日~7日を「機械週間」と制定しています。「たなばた」の読みは七夕に神に捧げる御衣を「棚機(たなばた)」という当時の織機で織り上げたことから生じたとされています。織機で作られる織物の側にも興味を持っていただけたら幸いです。(https://www.jsme.or.jp/event_project/machine-day/