一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.179 ジャンク修理

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2019年度(第97期)庶務理事
小河原 加久治[山口大学 教授]


今年還暦を迎える私個人の趣味の話題で恐縮です。 ジャンクとは製品本来の利用価値を失ったガラクタのことです。 学生時代に最初に手に入れた車がジャンク寸前の代物で、解体屋さんで必要な部品を探してきて、何とか車検を通して走らせていました。 考えてみれば、今でも40年前と同じようなことをして楽しんでいるわけですが、当時と劇的に変わったことがあります。 それは、中古部品の入手方法です。 昔は自分で廃車の山から目的の部品を探し出すしかありませんでした。 趣味としては楽しいのですが、時間とお金がそれなりに必要でした。 それが、現在ではネットオークションやSNSの普及により、ジャンク修理に必要な部品およびサービスマニュアルなどの整備情報の入手が飛躍的に容易になりました。

それでは、最近ジャンク状態から製品本来の機能を回復させることに成功した例をいくつか紹介させていただきます。 実は私が最近趣味で修理しているのは電気製品ばかりです。 ご存知の通り、最近の自動車は素人が手を出せる機械ではなくなってしまいました。 それに比べるとオーディオ機器や無線機などは、それほど大きくありませんので拙宅でも作業場所が何とか確保できるというのが理由です。

最初の例はFMチューナーです。 町のリサイクルショップに行くと、沢山のチューナーが縦置きされています。 本来横置きで使うものなのですが、縦置きなのはジャンクとして陳列効率を高めるためだと思います。 色々な年代のモノが1000円程度から入手できます。 昔あこがれていた機種に出会えることもありますが、全く知らなかった機種でも調べてみると技術的に非常に面白い特徴を持ったものであることもあります。 修理対象を選ぶ際に重要なことは、回路図・整備マニュアルなどが手に入るかどうかです。 気になるモノがあったら早速ネット検索してみましょう。 同好者が既にレストア記録をアップロードしているかもしれません。 現代のデジタル化(ソフトウェア化)されたオーディオ機器と違い、バイポーラトランジスタやFETで構成された機種であれば半田ごてを使って主要部品の交換が簡単です。 オリジナルの部品が手に入らなくても、代替品はネットで容易に入手できると思います。 ただし気を付けなければならないのは、1990年代以降の製品は表面実装部品が使われるようになったため、老眼鏡が手放せない世代には交換作業が少しつらいかもしれません。 足の生えた(リード線)部品が使われている1980年代までのモノがおすすめです。

ここまでの話では、部品を交換することが修理の醍醐味のように書いてしまいましたが、FMチューナーの場合、実はコイルやコンデンサーの調整だけで本来の機能を回復することも珍しくありません。 日本でFM放送が始まってから今日まで放送電波形式と周波数帯が基本的に変わっていませんので、オシロスコープと回路図さえあれば大抵何とかなります。 うまく調整できればFM放送が聞こえてくるわけです。 回路が理解できなくても心配要りません。 同好者のネットワークがSNS上にできていますので、知りたいことは大抵誰かが教えてくれます。

次の例は無線通信機です。 私は中学時代に真空管式トランシーバーでJG1CAVというアマチュア無線局を開局しました。日本のアマチュア無線局数は1995年の136万局から2018年には42万局まで激減したそうです。 老若男女を問わず皆が無線通信機(スマートフォン)を持っている現在、電波が届くかどうかだけを確かめ合って楽しむアマチュア無線は趣味として魅力が薄れているのだと思います。しかし、今でも技術的フロンティアの実証実験に立ち会っていることは実感できるのです。 例えばWSPR(Weak Signal Propagation Reporter)Networkは最新の信号処理技術とインターネットによる世界的ネットワークを使って電波伝搬状況をリアルタイムで報告しあうもので、短波であれば数ワットの電波出力で地球の裏側まで電波が届くことが確認できます。 最新の機器で通信するのも良いのでしょうが、私は1980年代初頭の半導体・真空管ハイブリッド機のTS-530(トリオ)の受信機能を回復し、南米チリからの電波を受信できました。 修理の決め手は、この機種が誘電雷等でアンテナに近いコイルがショートし易いという情報が入手できたことでした。 私のジャンクもそこがやられていました。

機械工学科で学生指導をしていると、機械を設計して実際に作成・動作させるまで体験させるのはなかなか難しいと感じます。 現代の若者に40年前の機械のレストアを進めるつもりはないのですが、情報技術の発達により枯れた基本技術にアクセスしやすくなっているのも事実です。 ネット上の疑似体験でも良いので、より多くの皆さんに”動かないものを動くようにする”醍醐味を味わってほしいものだと思います。