一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.197 オンライン講義の進展に思うこと
2021年度監事 藤田 修[北海道大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度監事 藤田 修[北海道大学 教授]

「オンライン講義の進展に思うこと」


ご存知のとおり、大学では今やオンライン講義が日常のこととなっている。当方の担当する講義でも、昨年4月にはコロナ禍の拡大により他に選択肢のないままにオンライン講義へ移行したのが実情である。しかし、これを継続する中で従来の対面型の講義に比べ意外にメリットもあることもだんだんわかってきた。例えば当方が関わっている教育プログラムの一つとしてインドとの交流を通して学生を育成しようとするもの(1)があるが、その中で実施する2単位の講義で日本人学生とインド人学生がチームを作ってグループディスカッションをさせるという部分を担当している。テーマは、インドあるいは日本のできるだけ具体的な課題を抽出し、これをどう解決するかを議論するというものである。従来は対面でグループディスカッションを行う形であったが、これをオンラインで実施した。具体的には、ビデオ通話システムの機能を使って全参加学生をグループ毎に振り分け、グループ内の議論はグーグルクラウドのツールを使って行う。例えばグーグルジャムボードというツールを使うと、あたかも皆でテーブルを囲んでその中央に大きな白い紙を広げそこに自由に絵や文字を書き込みながら議論しているようなイメージで作業できる。また、私たち担当教員は各ルームの議論が行き詰まっている場合は議論を打開するような質問を投げかけたりすることがあるが、これをオンラインで実施するとグループディスカッションへの助言は、現場にいる担当教員だけでなく世界中どこの誰でも可能である。今回はインドとの共同プログラムなので、インド側の大学の先生方はもちろんであるが、本プログラムを過去に受講した先輩など、労を厭わず協力してくれる方がいれば、途中30分だけ参加して各グループに助言を頂くことも可能である。とくに当方の所属大学は卒業生の多くが在住する首都圏や関西圏から遠方に位置するため、対面が前提であれば簡単に協力を頂くというわけにはいかない。このような場面ではオンライン講義の威力を感じざるを得ない。このような例だけでなく、通常の座学でも講義を録画して講義支援システムにアップロードしておけば、学生はわからなかったところを何度も巻き戻して見直すことも可能であり、また、以前なら講義時間に寝坊して聞くことができなかった講義も聞くことができる。

このように書くとオンライン講義は良いことばかりのようにも聞こえるが、現実には多くの悩みを抱えている。つまり大学の主要な機能と思われていた講義の部分がオンラインに置き換わったとしても、学びの場としてのキャンパスを抱える大学としての大事な役割をまだ満足しているようには思えないのである。学生から見ても、オンライン講義を受けているだけでは、自分が大学生であることの実感を持てなかったり、何のために特定の大学に入学したのかわからなくなる場合もあるように思われる。このオンラインの講義だけでは埋めきることのできない不満足な部分にこそ大学の存在意義があるように思うが、それが何なのか、そしてどのように満たして行くことができるのか、必ずしもわかっていないのである。コロナ禍が終えた後も、知識伝達の部分の多くはオンラインやデジタルツールに依存するようになると思われるが、これをフル活用して生じた余力を(なかなか余力は生まれませんが)不満足な部分を埋めるために注入していく必要がある。

翻って日本機械学会はどうであろうか。現時点ではコロナ禍に対応して従来実施していた各種講演会を途切れることなくオンラインで実施できており、一定の成果を納めているように思う。しかし、上で大学について述べたのと同じように、これだけだとどうしても物足りなさを感じる。自分の個人的体験を思い出すと、大学院進学直後に初めて機械学会の部門講演会で発表したとき、本当にどきどきしながら発表した記憶がありその時に最初に頂いた質問は今でも記憶に残っているほどである。また、別の学会で発表したときには、他大学の著名な先生から痛烈な質問を頂き、うまく応答ができず相当に落ち込んだ時もあった。このような「体験」はその後の研究活動を行ううえでの大きなエネルギーになったように思う。また、当然ながら学会の懇親会等を通して他大学の先生や企業の方々とおつきあいさせて頂く機会を得たことは、個人的に大きな財産になっている。これらは、オンラインの講演会やオンデマンドでの情報提供では得ることができない種類のものであり、そのような類いの役割や価値を提供し、今感じている不満足感を補う活動にエネルギーを投入していくことが今後の学会の課題の一つであろう。

(1) 北海道大学世界展開力事業:https://eprogram.eng.hokudai.ac.jp/office/iao/stsi/