一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.200 「澤潤萬物」
2021年度広報情報理事 高橋裕一[三浦工業(株)]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度広報情報理事 高橋裕一[三浦工業(株)]

「澤潤萬物」


沢は万物を潤す。水が流れる沢のおかげですべてが潤うという意味らしい。愛媛県にある四国電力(株)様(以下失礼ながら四国電力と省略)面河水力センター管内の施設に掲げられた石碑の文言である。

澤潤萬物(提供 四国電力株式会社)

これらを知ったのは四国電力にご無理をいってあるお話を聞かせてもらったためである。四国電力管内に32年ぶりに取水から発電までを行う、新しい水力発電所(黒藤川発電所)ができるというニュースを聞いてずっと気になっていた。現在面河水力センター管内最新の(と言っても32年経っていることになるが)柳谷発電所(調整池式)は私の父が勤務しており、できてからもうそんなに経つのかと思うと感慨深い。本コラムで何を書こうか迷っていたこともあって、学会の名前をお借りして四国電力にコンタクトをとったところ快く面談を了承いただき、いろいろと興味深いお話を聞かせていただいた。

私は四国電力面河水力センター管内の第五黒川発電所のすぐそばの同社社宅で生まれた。祖父も父もこの管内の水力発電所に勤務しており、水力発電所は極めて身近な存在であった。古い水力発電所は愛媛県の鉄道会社である伊予鉄道(株)が電車を走らせるために建造したのが始まりらしい。冒頭の碑は伊予鉄道電気(株) 井上要社長の時代に作られた水力発電所に掲げられているそうだ。そのほかに水中有火(水で電気の明かりを灯す水力発電開発への思い)、克制自然(山間部で大規模な工事を終え、自然の力を文明の向上に活用できる喜びを示した言葉)が現存している。いずれも大正から昭和初期の日本の黎明期における活力みなぎる言葉だと感じる。


水中有火(提供:四国電力株式会社)
克制自然(提供:四国電力株式会社)

 

四国電力ではエネルギー自給率の向上やCO2排出量削減の観点から、再生可能エネルギーの有効活用を推進するため、新しい発電所を建設することになったとのことだった。新しい発電所は前川(黒藤川は発電所が建設される地区の名称)に建設される。理事の紹介文でも書かせていただいたが、私の趣味は渓流釣りであり、前川もよく釣行している川である。先に書いた第五黒川発電所(流れ込み式、最大出力5,500kW)が取水する川の規模に対し、かなり小さいかなと直感的に感じていたが、新しい発電所は第五黒川発電所と同じ流れ込み式であるが、最大出力は1,900kWということであった。

技術屋の端くれとしては32年も経つと新しい技術が投入されるのではないかという興味があり、お話を聞かせていただいた。今回の水力発電所は総落差171mの水を利用して発電し、二酸化炭素排出量を年間3,500t削減する。同規模の古い発電所がペルトン水車を使っているのに対し、黒藤川発電所は四国電力では初採用となる、ターゴ水車を使うらしい。低出力から高出力まで幅広い範囲で水車効率に優れており、構造がシンプルなため日常メンテナンス・補修も容易な特徴を持つ。四国電力によると、同規模のペルトン水車を用いた古い発電所に比較して、発電効率は数%上がるそうだ。水車というとかなり古い技術と考えていたが着実に改良されていることに感激した。

ターゴ水車鳥瞰図(提供:田中水力株式会社

 

また幼少時代に日常の風景に溶け込んでいた水を水車に導入する水圧管路について、“あれは鉄管路だ”と父から教わっていたが、今回はそう呼べなくなることも知った。新しい発電所では地面に埋没する水管は耐久性に優れたガラス繊維強化ポリエチレン管(四国電力では新規採用)を使い、露出部はFRP管(一部、FRPM管、鋼管)を用いて施工するので鉄管の使用箇所は少ないらしい。ガラス繊維強化ポリエチレン管は電気融着による一体化が可能で施工にも特殊技能を必要としない、耐震性能に優れる、耐薬品性に優れており、自然界に存在するレベルの酸性・アルカリ性物質からは影響を受けない等の優れた特徴を持つ。発電所建設地域は道路の道幅も狭く、かなり急峻な地形のため、軽量であること、施工性が良いことは工期短縮に大きく貢献するであろうことは容易に想像できる。

ガラス繊維強化ポリエチレン管(提供:タキロンシーアイシビル株式会社)

 

また鉄管路と言えば私の印象では白塗装をされたまっすぐな管であったが、今回は何色になるのか。イメージ図を見る限り白ではないようでより自然に溶け込む設備になるのかもしれない。

黒藤川発電所 完成イメージ(提供:四国電力株式会社)

 

個人的に重要である“水系の魚は大丈夫ですか?”と不躾なお話もさせていただいた。今回の発電所では禁漁地域も設定されない予定で、自然に対して十分な配慮をおこなって設計されており、建設後も釣り場がなくなることはないようだ。企業もしっかりと環境を守って事業をしていただいているのであるから、私たち釣り人も四国の美しい川を後世に引き継げるよう、ルールを守って釣りを楽しみたいと思う。運転開始は2024年6月とのこと。そのころ、これらの新しい技術を盛り込んだ発電所や取水堰堤を見ながら釣りができることを楽しみに待ちたい。

黒藤川発電所 取水堰堤イメージ(提供:四国電力株式会社)

 

最後に私の個人的な興味に快く対応していただいた四国電力の皆様にこの場を借りて深くお礼申し上げます。父と仕事をしていた方、私の高校の同窓だった友人も参加いただき、非常に楽しい時間を過ごすことができました。

また写真、資料を快くご提供いただきました田中水力会部式会社、タキロンシーアイシビル株式会社も深くお礼申し上げます。おかげさまで大変勉強になりました。