一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

メニュー

No.202 素晴らしい「き・か・い」との出会い、感動
2021年度財務理事 稲垣 瑞穂[(株)豊田中央研究所]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度財務理事 稲垣 瑞穂[(株)豊田中央研究所]

素晴らしい「き・か・い」との出会い、感動


機械学会に入って30年になる。学会を通して、いろんな専門分野、産業の方々と出合い、製品開発や研究のお話を直接伺えたことは幸運の連続だった。今でも、そこで教わったことが都度蘇り、前向きな刺激をいただいている。機械に興味を持ち始めて50年、思えば機械自体にも、たくさんのことを教えてもらっているわけで、この機会に、機械の大切さと奥深さ改めて考えてみた。全くの私事になり誠に恐れ多いが、少しでも機械ファンの仲間が増えて、開発された方への感謝にもつながれば幸いです。

 

最も強烈な出会いは、田植え機である。家が農家なので、田植えは最大の年中行事だった。昭和40年代までは、田植えは手作業。毎年6月になると、植子さんと呼ばれる職人さんが5人ほど家に寝泊まりして、家族と一緒に10人がかりで1週間かけて田植えを行う。昭和50年代には、農業も機械化が進み、我が家にも田植え機がやってきた。これが素晴らしく優れもので、数リットルのガソリンで10人の作業が1人ででき3日ほどで終わる。生産性は20倍以上、だれの腰も手も痛くならない。何より、重作業から解放され、普通に学校にも行けるので、人生そのものが明るくなった。

苗植えの機構は、図1のようなハンド機構になっている。二本爪の先端が青点線の曲線を描くことで、パレットから苗を取り、土に埋込む作業を繰り返す。人の数十自由度の手腕の運動機能を、この2自由度の機構でシンプルに自動化してる。土の硬さや石の混ざり具合も様々なので、この機構の強度保証は大変なご苦労があったと思う。部品形状と材料特性がバランスした精緻な構造設計技術が構築されていると感動する。田植え機も、年々進化しており、当初は2列植えだったが、今は、10列同時植えまで可能で、人は乗車して作業できる。苗切れの警告もあり知能化も進んでいる。確実に高齢化は進むので、自動運転化は一番望まれることでもあり、更なる発展を切に期待する次第である。

図1 田植え機(4列同時植え)と苗植え機構

 

二つ目は、餅つき機である。機械の不思議さと発想の転換の大事さを教えてもらった。餅つきは、①もち米を蒸して、②潰して、③ついてこねるの3工程になる。昔は、この②と③を、臼と杵を使って、手作業で行っていた。最初の家庭用の餅つき機は、②③を自動化したものである。臼と杵を使う手作業では、図2のような杵の往復運動になる。餅つき機は、杵の往復運動を、小さなプロペラの回転運動に置き換えることにより、②もち米を潰し、③ついてこねる工程を自動化している。現在は、①②③の全工程が自動化されているので、もう人は食べるだけである。何故、プロペラの回転だけで、お米が潰されて、きれいな丸い餅になるのか、今でもその原理が理解できていない。最初に使ったときは、今までの苦労は一体何だったのかと、手品でも見ている感動があった。専門家には、通常の着想かも知れないが、第3者には革新的な発明に見える。そもそも、もち米を餅にするとは、どんな物理変換をしていることなのかの原理に立戻り、機械の目的を上位概念化した多面的な技術視点からしかこの種の発想は生まれないと思う。発明ブレーンストーミングの好事例として、参考にさせてもらっている。

図2 杵と臼による餅つきと家庭用の餅つき機

 

もう一つはエンジンである。技術の面白さ、深さ、難しさを学んだ、技術の先生である。最初の出会いはやはり、農機具用だった。農機具のエンジンの発展の系譜は、(株)クボタさんのHPでも紹介されていて興味深い(1)。昭和40年代までは、灯油を燃料とする石油発動機がよく使われてた。キャブレター(気化器)のある火花点火機関で、始動時の手回しハンドルを兼ねた大きなフライホイールがついている。沸騰蒸発による水冷式で、ウォータジャケットの穴から時々水を足す。単気筒なので音と振動は凄い。すべて機械式なので、少し慣れてくると、理屈は分からないが、排ガスや音や冷却水の様子をみながら、負荷に応じてスロットルや気化器の調整ができるようになる。大きな動力機械を自分で操作できる手ごたえは、子供にはワクワクドキドキの連続であり、エンジニアの道を選ぶ大きな動機になった。

会社に入ると、自動車用のエンジンに関わる研究に従事し、振動騒音を小さくするためのCAE計算技術の開発を担当した。意味のある計算技術にするには、まず、起振源となるピストン・クランク軸系の荷重伝達現象を定量的に掴むことが大事である。実際のエンジンの中の荷重伝達計測は、試行錯誤の連続だったが、先輩からひずみゲージなどの貼り方、校正方法、温度補償の仕方など、様々なノウハウを教えてもらった。自分たちでエンジンを組み付けて動かして測ったことは、物理現象を仮説し検証するという研究開発の基礎を身に着ける意味で大きな財産になった。

最近は、機械分野の研究も、モデルベース、機械学習などソフトウェアファーストへの技術シフトが進む。それ自体は、効率化と新たな価値創出のため大事だが、実際の機械に触れる機会が少なくなり機械の本質改善を追求する力が弱くなる懸念もある。新たな機能材料、エレクトロニクスデバイスなどとの融合で人の暮らしを更に良くする機械は今後も創出されるであろう。健全な精神(ソフト)は、健全な肉体(ハード)に宿る。機械学会は、その両軸のバランスをとる工学基盤の発展とその人材育成を牽引することも大事な役割と思う。若い人には、これだから昭和生まれは・・・と、煙たがられるようになってきているが、モノに触れる大切さは、しつこく言い続けていきたい。

参考文献
(1)エンジン|技術の系譜|株式会社クボタ (kubota.co.jp) https://www.kubota.co.jp/innovation/evolution/engines/detail/detail.html