一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.208 日本機械学会の学術誌をどうする?
2022年度編修理事 鞍谷 文保[福井大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2022年度編修理事 鞍谷 文保[福井大学 教授]

No.208 日本機械学会の学術誌をどうする?


私の担当は編修で、2021年度編修理事会(編修担当副会長と3名の編修理事)の重点検討課題は「学術誌の価値向上と掲載件数の増加」でした。2022年度も「学術誌の価値向上と投稿数・掲載数増加ためのアクションプランの具体化」が重点検討課題となっています。

本会学術誌の英文誌は2006年6月に電子ジャーナル化し、J-STAGEでのオープンアクセス(OA)ジャーナルとなり、和文誌も2011年1月からOAジャーナルとなりました。しかし、英文誌、和文誌とも掲載数が減少し、その回復を目指して2014年1月に新学術誌として再編されました。再編の方針は機械工学の全分野をカバーする総合誌とすることで、英文誌はMechanical Engineering Reviews (MER)、Mechanical Engineering Journal (MEJ)、Mechanical Engineering Letters (MEL)の3誌(部門英文ジャーナル4誌は継続発行)に、和文誌はA編、B編、C編を統合した日本機械学会論文集に再編されました。しかし、2014年の再編後も英文誌、和文誌ともに投稿数、掲載数の減少傾向は止まっていません。そこで、2020年ころから再度、学術誌の価値向上と投稿数、掲載数の増加に対する施策の検討が具体的に始まり、実施されてきました。

具体的には、高品質な査読付きOAジャーナルのリストとして国際的に認知されているDOAJ(Directory of  Open Access Journals)への収載を目指し、著作権条項の改訂(クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用)などを行い、2022年5月時点でMEJ、日本機械学会論文集、JFST、JTST、JBSE、JAMDSMの6誌が収載されています。また、技術的な論文の投稿を促進するために学術誌規定の改定を行い、独創性や萌芽的発展性にかかわらず、工学的・工業的有用性が顕著な論文の掲載が可能となるように査読判定項目を変更しました。さらに、2014年の再編時に廃止された「和文・英文誌間の再録論文」を新たな考えのもとで復活させることを進めています。まずは、和文誌から英文誌への再録に取り組んでいます。これは、和文誌への海外からのアクセス数が増加(例えば、2017年と2020年を比較すると日本と米国からのアクセス数が逆転し、欧州からのアクセス数も堅調に増加)しており、思ったより世界中で読まれているため、和文誌(日本機械学会論文集)に掲載された質の高い論文を英文誌(MEJ)に再録することで、MEJの価値を向上させようとの考えです。二重出版に該当しないように、学術誌規定に推薦論文を新設し、再録論文の位置づけを明確にしました。再録論文は和文誌の価値向上にも繋がると考えており、企業所属会員には和文誌と英文誌の両方で論文内容をアピールする機会として、大学所属会員には和文誌へ投稿することで、企業所属会員からの和文誌は情報源として重要との要望に応える機会として、前向きに捉えていただければと思います。

研究成果を広く共有することは学会の重要な責務であり、企業所属会員にとって重要な情報源である和文誌を守りながら、英文誌の価値を高める施策を検討することが必要と考えます。大学所属会員においては、業績評価を考えるとインパクトファクターのついたジャーナルへの投稿が求められています。本会学術誌のインパクトファクター取得への次のステップとして、主要なデータベース(Web of ScienceあるいはScopus)への収載を目指しており、そのためには海外からの投稿を促す、さらに編集に海外の研究者に加わってもらう必要があります。

編修理事を拝命するまでは、本会の学術誌をどうするのかを考えたこともありませんでした。私の言葉では説得力はありませんが、本会学術誌は日本の機械工学の最新動向を世界に発信する役割を担っています。その学術誌を継続的に発行し、その価値を高めるためには、会員が学術誌を守り育てる気持ちで積極的に投稿する。それが、国際的に評価される学術誌に繋がると信じています。