一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.216 過去から学ぶ、温故知新
2023年度企画理事 辻 英樹〔(株)小松製作所〕

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2023年度企画理事 辻 英樹〔(株)小松製作所〕

No.216 過去から学ぶ、温故知新

 


2022年末から生成AIのChatGPTが話題となり、わずか1週間で100万ユーザーを獲得、さらに2ヶ月でユーザーは1億人を超え、凄まじい勢いで世の中に広がっていきました。あまりにも短期間で技術が広がったために、短期間で完成度の高い技術が生まれたように錯覚しますが、AI(人工知能)の概念は、1950年にイギリスの数学者アラン・チューリングが出した著書『計算する機械と人間』が起源といわれており、ブームにもなった4回の大きな技術開発を経て、70年越しで技術が一般の人々に届いたことになります。AIの概念が生まれ、研究が進み、研究が推進されるためのコンピュータを始めとした周辺技術の研究開発も進み、そして誰もが技術を使える環境、例えば、スマートフォンが個人へと広がっているという環境が整い、ようやく便利な技術を手に入れることができました。概念から研究開発、そして環境が整い、技術が一般の人のもとに届いたことになります。
機械工学の分野で見てみるとどうでしょうか?同じように一般の人にとって身近な技術として自動車があります。特に近年、重要な課題であるカーボンニュートラルを実現するために、水素を活用した新しい動力源をもつ自動車が街中を走り始めました。自動車の動力源がどのように変遷を経て、それぞれの動力源が開発されるまでに、どれくらいの歳月を要したのか興味が出てきたので調べてみました。

1769年に世界初の蒸気自動車がフランスで開発され、約60年後の1827年に蒸気集合自動車の運行がイギリスで開始されました。日本は、まだ江戸時代の時期で、明治時代になるまでの40年も前の時期です。欧州での話ですが、蒸気自動車の技術が広がるまで、約60年かかっています。おもしろいことに、蒸気自動車が運行された同時期の1830年代に、スコットランドで電気自動車が発明され、1859年のフランスでの鉛電池の発明を経て、1886年にイギリスで電気自動車の販売が開始されました。発明から発売まで約50年です。さらにおもしろいことに、同年の1886年に、世界初のガソリン車をBenzが発明、1908年にはT型フォードの発売が開始され、ガソリン自動車が一般の人々が利用できるものとなりました。発明から発売まで22年ですが、自動車の発明から遡ると130年かかったことになります。

また、1900年前後では、蒸気自動車、電気自動車、ガソリン自動車が走っていたことになります。データを見つけたアメリカの1900年の自動車台数は4,192台、自動車動力源の内訳は、蒸気自動車が1,681台(40%)電気自動車は1,575台(38%)と蒸気自動車のほぼ同数、ガソリン自動車が936台(22%)でした。1908年にガソリン車のT型フォードが発売されると、1909年の自動車台数は126,593台と30倍になり、自動車動力源の内訳は、蒸気自動車が2,374台(2%)、電気自動車は3,826台(3%)と台数は増加したものの、ガソリン自動車が120,393台(95%)と120倍に増加。1919年では、自動車台数は1,683,9163台となり、自動車動力源の内訳は、蒸気自動車が406台(0.02%)電気自動車は3,183台(0.2%)、ガソリン自動車が1,683,916,393台(99.8%)となり、まずは蒸気自動車が姿を消し、次いで電気自動車も1912年に生産のピークを迎え、1935年には姿を消しました。

1900年前後の時期と同じく、現在、カーボンニュートラルに向かい様々な動力源をもつ自動車が販売されています。エネルギー源の課題もありますが、まずは人々の身近に新しい動力源を持つ自動車を届けることも大切だと思います。機械の原理・原則を理解し、機械の性能を維持し、効率を上げながら、コスト低減、小型化、軽量化などを実現しながら、技術を身近なものにするのが機械工学であり、身近なものとなることで、さらに技術が進化します。今後、技術がどのように進化するか楽しみです。また、今回、技術歴史をさかのぼってみると、知らなかったことが多く、なぜ?がたくさん出てきました。秋の夜長に、技術の変遷を振り返ってみてはいかがでしょうか?何か気づきが得られますよ。