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2018/1 Vol.121

【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)

前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。

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座談会

「理工系分野における女性活躍」

 

2017 年、日本機械学会は120周年を迎え、
Inclusion、Integration、Inspiration という、
3 つのI をテーマに掲げた。
本日のテーマは、一つ目のI である「Inclusion」。
理工系、特に機械系および工学系に女性が少ない理由は何か?
そして、女性が理工系を選択するために学会ができることとはなんだろうか。
理工系分野でご活躍のお二人をお招きし、対談を通してそのアイデアをいただいた。

リケジョは珍獣なのか?

小谷:私自身、中学生の頃から「一生数学をやれていたらうれしいな」と考えていたので、迷うことなくこの道に進みました。理学系では特に数学、物理分野で女性が非常に少なく、私が学生の頃は本当に女性が珍しいと言われていたんです。
しかしそれ以降、毎年女性が入ってくるのが当たり前になったので、これからどんどん増えるのかと思ったら頭打ちになってしまったんです。これはどういうことでしょうね。

我妻:私も何らかの形で数学に関わりたいという気持ちを子どもの頃から持っていたのですが、当時数学科の学生が大学を卒業すると、教員かコンピューター関係への就職がほとんどだったんですね。私も学生時代に授業でプログラミングを習ったり、パソコンを購入して自宅で触ったりしていましたので、思い切って情報技術産業を本業にしようとこの世界にチャレンジし、IBM 入社後は技術者として実務に携わってきました。私の学生時代も数学科に50人強の学生が在籍していたのですが、そのうち女性学生は6 ~ 7人でしたね。

小谷:6 ~ 7人も。それは恵まれていらっしゃいましたね。

我妻:多いほうですよね。自分が1人でぽつんといたら、ちょっと乗り切れなかったかもしれない。それでもやっぱりおっしゃるように、化学や地学に比べると圧倒的に少ないです。

大島:私も工学系の大学で、女性は160人中4名。1 クラス1人、40人に1人でした。さらに大学院に行ったら「女性はこの10年で2人目だ」と。その後は3年おきに1人程度の入学だったのが、毎年コンスタントに入ってくるようになりました。しかし今、小谷先生がおっしゃったように5人ぐらいで頭打ちになっています。

大野:私は機械系で、200人中2人でした。少ないですよね。皆さんの高校時代はどうでしたか?

小谷:進学校には珍しく男女同数の高校だったのですが、大学に入ったら約1,000人の中に女性が13人。周りは珍しい動物を見るような感じでしたので、そこは最初のハードルでした。

大野:遅かれ早かれ大学に来ると、女性の少なさを実感してしまうというのが理系の特徴でしょうか。なぜ数学や工学、特に機械には女性が来ないんでしょうね。

 

自然と求められる「女の子らしさ」

我妻:数学科の女子学生に話を聞くと「相対的に自分の感性に合うものを選んだら、たまたま数学だった」と言います。感性とは、自分が育ってきた過程の中でどんな価値観を得てきたかに大きく依存しますが、それが男性と女性で少し偏りがあるのかなと思ったんですね。自分が子育てしてみてわかったのですが、親が性差を意識して、男の子と女の子で与えるおもちゃが異なるなど、先入観が働いてしまうところがある気がします。もうひとつは、こちらが何も示唆しなくても現れる性差があるということ。例えば息子は道を歩いていても、車が通ると「あの車は○○だ」とすぐ覚えて、車輪の動きなどを興味深く目で追いかけるんですね。そこはやはり本質的に違うものがあるのかな、と思いました。

小谷:後半はいろいろなところで既に議論されていますが、前半は大切ではないかと思います。例えば工学系には男性が多いけれど、その中で具体的な未来像を持っている人が果たしてどのくらいいるのか。もしかしたら意識的に選ぶ人は少なくて「男の子だから理学か工学だよね」「女の子なら文学だよね」と、なんとなくの刷り込みで選んでいる人も多いのではないでしょうか。大学で何を学ぶのか、それを学ぶことによってその先のキャリアにどうつながっていくのか具体的に描けないために、男性は理系、女性は文系、というようなデフォルトを選んでしまうのかもしれないですよ。

大島:確かにそうですね。

小谷:先ほど我妻さんは「男の子は自動車が好き」とおっしゃいましたが、子どもは親の喜ぶことに関してとても敏感です。私の弟も、娘が女の子っぽいことをすると喜びます。だから自動車が本当に好きなのか、親が喜ぶから自動車のようなものを喜ぶのか、これも分析が必要かもしれません。果たしてそれは本当に性差なのか、という。

大島:多分、遺伝的な女性男性の話と環境要因を完全に切り分けられないところはあると思います。私の娘も主人と私を見ていて、世の中には男性と女性がいるということは認識している。かつ、自分は女性だという認識もしているんです。そして最初は、なんとなく女性のパターン認識を真似ているのかもしれない。誰も刷り込んでいないのに、娘はバッグが好きなんですよ。それで周りも、喜ぶからとどんどんバッグをあげるという、ポジティブフィードバックになっているのかもしれません。

大野:そういう意味で、デフォルトではないものを選択された皆さんに質問ですが、親御さんはどんな方でしたか?

小谷:私は親に「反抗期がなかったから楽だったでしょう」と言ったら「何を言っているのよ、ずっと反抗期でしょう」と言われました。自由にさせてもらったということかな、と。

我妻:私も考えてみると、よく親のセリフで「女の子なんだからこうしなさい」という枠にはめるようなことは一切言われた記憶がないですね。

大野:私も母に「生きていくことだけ考えなさい」と言われていました。女性らしい仕事に就け、といった話はされたことがなかったです。その中で、自分が選択した道がたまたまこれだったという感じです。

職業観には男女差がある?

小谷:数学科に進学しない女性が多い理由として「女性はライセンスがないと仕事ができないから、医学部や薬学部に行きなさい」と勧められているからということがあるような気がします。だから数学でも工学でも「あなたが選択したものは、人生の中で活かせる場所がたくさんある」と、若いときに知ることがとても大切ですよね。

大島:そうですね、気付きは大事ですね。女性の場合は「結婚や妊娠などにより途中でキャリアを諦めなければいけない可能性があるから、長く勤めるには資格が必要」という感覚なのかもしれません。最近工学系も少しずつではありますが人気が出てきているのは、就職にいろいろな選択肢が出てきたからではないでしょうか。企業に就職しても、結婚のタイミングで退社をする人は減ってきていると思います。しかし、その現状を知っている人は限られているんです。高校の先生も親御さんも、自分たちが大学生の時のイメージがリセットされていないから「工学系に行っても就職できないよ」と言われた話を学生から聞きます。きちんとアップデートされた現状を説明することも大事だと思います。

我妻:工学部は私たちから見ても、大学で学んだことが仕事に直結するイメージがあります。一生ちゃんと働いて稼がなければいけないということを考えると、男性にとっては非常に選択しやすい道ではないでしょうか。一方で、女性にとってもいい時代になったと思います。先入観や古い価値観にとらわれることなく、自分はこれからどうやって生きていくのか、選択肢がいろいろある。バリバリ働くのもひとつの考え方だし、趣味もしっかりやるというのもひとつの考えですよね。

大島:それ面白いです。最近男子学生と話していたら、我妻さんとまったく同じことを言っていました。女の人はいろんな選択肢がある。だけど男の人は働き続けるという選択しかない。だから「女の人がうらやましい」のだそうです。

変化する職場の実状

我妻:最近若い世代の人たちの価値観はどんどん変わっていて、例えば男性で育児休職を取る方もいます。でも依然として「子育てに専念したい」と仕事を辞める女性社員もいます。だからこれはカップルの考え方にもよるのでしょうが、いろんな選択肢がある。そしてそれを受け入れる社会の制度や仕組み、価値観もだいぶ整ってきているのでしょうね。弊社でも「今日は子どもを迎えに行くので早く帰ります」と言っても誰も何も言いませんし、自分の今の状況に応じて他の人に迷惑をかけないようにやりくりする方も多くなりました。

小谷:しっかり仕事をして、他の人に迷惑をかけなければいい。少し前の世代だと、男性は環境が許したとしても抵抗があったかもしれないですが、そういうことがだいぶなくなってきていますね。

大島:私は大学教員ですが、会議の時に小学校から「子どもが熱を出したので途中で帰らせる」と電話がかかってきて、そのことを上司の教員に伝えたら「会議を抜けて早退していいよ」と言ってもらえたんですね。しかしあるとき同じ教員の男性が「僕が同じことを言ったときには『なぜ奥さんが行かないんだ』と言われた」と言うんです。男女関係なく何かがあったときに他の人がサポートする流れができると、突発的なことが起こっても男性も自由に発言できますよね。IHI はどうですか?

大野:制度は整っていますが、部下も上司も慣れていない雰囲気がありますね。私の所属する職場では、男性社員が会議中に飛び出して行くのは稀なケースです。まだ、働き方改革の途中です。

我妻:私がIBMに入った理由は、結婚や出産により仕事を辞めるという人生を望んでいなくて、プロとして社会に貢献できるものを持ち続けていきたいという気持ちがあったからです。当時はまだどこの企業にも長いキャリアを継続している女性社員があまりおらず、日本企業で仕事をすることの難しさも感じていました。IBM には女性の先輩もたくさんいましたし、海外のIBM でお子さんが2 ~ 3人いる技術者の方が活躍していらっしゃる話も聞いていたので、企業の体質や考え方のベースがある会社だなと感じて選んだというのはあります。

小谷:それで言うと、海外の研究者はどうですか? 数学に限ると、外国の研究者は「今日は子供を迎えに行く」とか、大事な研究集会でも「その日は息子の運動会だから行けない」とかが普通なので、すごいなと思った記憶があります。世界的にも超一流の数学者が、研究集会よりも子どもを取るという生き方をしていて、格好いいと思いました。

大島:なるほど。そもそも、海外ではそういう家族のイベントがあるときに、オフィシャルなものをぶつけないですね。家族と仕事の切り分けが社会全体できちんとされている感じがします。私の研究室にいるドイツ人留学生は、遅くとも6時には帰宅して家で食事を取ることを習慣にしているようで、母国のドイツでもそういう社会的な動きになっているそうです。

我妻:これは国民性かもしれませんが、企業だと周囲に合わせたり周りの反応を見たりするところがありますよね。私が会社に入った頃は、まだ日本の多くの企業にそういう価値観が蔓延していて、自分の仕事が終えているかどうかに関係なく、周りが帰っていなかったらまだ会社にいる。仲間と一緒にそこにいることがある意味重要で、仲間意識を醸成するような価値観があった気がします。

大野:それはIBMにもありましたか?

我妻:一部そういうところはありました。そのあたりは徐々に変わっていきましたね。私の職場の場合は特にお客さま相手の仕事なので、会社にいることで会社の業績が上がるということは絶対にないのです。むしろ、取引先に行っていて不在率の高い方が確実に業績もアップする。会社でも固定席でいつも同じ仕事をするのではなく、今はフリーアドレスです。もっと言うと、会社の事業所の中に社員の数分の席はありません。

小谷:働いている人に何かいい影響を与えていますか?

我妻:どういうスタイルで仕事を進めると一番効率がいいか、自分なりに考えて仕事をするようになっているので、生産性や効率は随分変わったと思います。お付き合い的な仕事の仕方が随分減りました。

大島:自律分散型ですね。

リケジョを増やすにはロールモデルが必要

小谷:東北大学では、理系の大学院生が中学や高校に行って、自分の研究の話をする『サイエンス・エンジェル』制度を設けています。大学で理系に進学したからといって必ず研究者になるわけではないし、高校や中学の理科とだいぶイメージが違う研究もあるし、理系の女性のモチベーションもさまざま。研究のバラエティー、キャリアのバラエティー、モチベーションのバラエティーですね。それを教授になった女性研究者ではなく、そんなに年の離れていない大学院生が伝える。身近で良いロールモデルではないかと思って始めました。数学や工学が嫌いというよりも、具体的なイメージがないから進学しない女子中高生にも知ってもらいたいのです。

大野:デフォルトをいっぱい作ればいいんですよね。

大島:それでちょっとお聞きしたかったのは、例えば機械系のようにもともと少ない学科の場合は、デフォルトを作ろうにも人がいなくて作ることができない。どこかでそれをブレークしなければいけないのですが、それをどうしたらいいのか、という悩みがあるんです。例えば出張授業などで、機械系のキャリアパスについてなるべく企業の方が行って話をするなどして、イメージを膨らませるようなこともしているのですが。

小谷:小学生向けにイベントをやると、母親が付いてきます。母親に「数学って楽しいよね」というイメージを持ってもらうことも大切かもしれません。

大島:なるほど、保護者ですね。最近はお父さんもいらっしゃいますから。

小谷:保護者だけでなく、先生に伝えることも大事ですね。その先生が働いている限りは、ずっと生徒にその楽しさを伝え続けてくれますから。

我妻:私も2017年の6 ~ 7月に大学で授業を持たせていただいたんです。「数学を専攻した人には、まだこういうところで活躍する余地があるよ」という話も含めて、学問的な数学だけの経験では、学生が選ばない道があるので、今この世界のインフラを支えている技術とはどんなものか、そこでどんな人が活躍しているのか、数学をやっているとこういう世界でどのようなアドバンテージがあるかなどを伝えました。

大島:職業の選択については、グローバル化も含めて多様になってきていますよね。その中で自分がどれに合うかということは、情報提供をしてもらうことも大事なことですが、その情報からどう判断するかですよね。さっき我妻さんは、先輩を見て就職後のイメージが湧いたとおっしゃいましたが、そういう部分も大事なのでしょうか。

我妻:そうですね。実際、就職を決めるときに何が決め手になったかと学生に聞いてみると、やはり人とのつながりが大きいようです。「自分の先輩がその会社にいて、こういう仕事をしていた」という、イメージしやすいロールモデルがあるかどうかですね。

 

リケジョが世界を変えるキーマンになる

大野:最後に、皆さんから夢やこれからの目標について一言いただきたいと思います。

小谷:社会全体が大きく変わり、AI やビッグデータという単語がよく聞かれるようになりました。今、数理をベースにしないと物事は動かなくなっています。数学は本当に物事を変える力があると思うので、そういうことを自分ができたらうれしいし、そういうことができるような環境づくりに貢献したい、というのが私の夢です。数学は、文脈を読み取る学問。文脈を読み解いて、その文脈の中で適切な言葉を作る学問です。そういう言い方をすれば、実は女性が得意だと言われている能力が非常に要求される学問であると分かります。工学にも進んでほしいですが、ぜひ数学にも来てほしいです。

大島:工学も数学がベースになっていますからね。

我妻:私はコンピューター、テクノロジーの会社で仕事をしていますが、我々の社会のインフラや仕組み、価値観を変えているのは新しいテクノロジーであり、それらは我々の生活にとって有益なもの。少しでも「こういう仕組みができて便利になったね」とひとりでも多くの方に言っていただけるようなデジタル変革に関わっていきたいというのが私の今の目標です。データの解析って、数学の算術的な統計学や、いろいろな数式に当てはめて何かを解くといった世界のことに思われがちですが、実はそこから得られた結果や、そこに対するインサイトがある。まさに「文脈を読む」なんです。それらを蓄積し、様々な解析に生かせるのがAI のすごいところ。理工系の方が活躍できる仕事は増えると思いますので、ひとりでも多くの方に日本の技術を支えていただきたいです。

大野:ありがとうございました。大島先生、最後に。

大島:AIやコンピューターも大事ですが、やはり人とのつながりも大事。自分たちが持っている夢を形にするというプロセスを、学会という場で、人とのつながりを通して目的を享受し、作り上げていくことができるといいなと思っています。そういう場にまだ女性が少ないので、プロセスを共有しながら参加し、リードしていってもらえるとうれしいです。

(2017年10月25日@ 品川プリンスホテル会議室)


<フェロー>

大島 まり
◎東京大学 大学院情報学環/生産技術研究所 機械・生体部門 教授
◎日本機械学会 会長


小谷 元子
◎東北大学 大学院理学研究科 数学専攻 教授
◎日本数学会 2015・2016 年度 理事長


我妻 三佳
◎日本IBM(株) 執行役員
◎デジタル変革の推進とクラウド関連ビジネスに従事。
人材育成や「企業における女性のキャリア形成」にも取り組んでいる。


<正員>

大野 恵美
◎(株)IHI 資源・エネルギー・環境事業領域 ボイラSBU 基本設計部燃焼技術グループ 主査(課長)
◎日本機械学会 広報情報理事

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