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2018/1 Vol.121

【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)

前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。

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特集 新たな価値創造のために ~女性活躍と多様性の推進~

女性技術者・メカジョがさらに活躍するためには

田中 真美(東北大学)

組織によるさまざまな支援

女性の活躍を後押しするために、さまざまな支援が行われている。本稿では東北大学で行われている、大学全体、工学系、そして機械系の支援について紹介する。

東北大学は開学以来の精神として、「門戸開放」を謳っており、1913年に日本初の3名の女子大学生が誕生している。現在、大学は文部科学省のダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)杜の都エンパワーメント推進事業に採用され、さまざまな取り組みが進められている。表1 に現在の大学の支援を示す。これまでも、東北大学は2006年に文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成事業」や2008年に「女性研究者養成システム改革加速」事業に採択され、それらの終了後は独自に支援を行ってきたが、今回の杜の都エンパワーメント推進事業に採択されたことによって項目2、7、8、11 が新たに加えられた。特筆すべきは、項目1と3 の両立支援に関しては、性別に関わらず支援が行われており、複数の男性も利用しているところである。また、項目9 の次世代育成のサイエンス・エンジェルは、女子大学院生による活動で2006年から行っているものである。図1 は今年度のMITと共同科学イベントの様子であり、活発に行われた様子が伝わってくるであろう。

表1 東北大学全学の支援

 

図1 サイエンス・エンジェルMIT と共同科学イベントの様子

 

工学系の支援に関しては、工学系女性研究者支援推進室(ALicE:Association of Leading Women Researchers in Engineering)を設置している。これは機械系、電気系、材料系、建築系、化学系、情報科学、環境科学、医工学などを含むものである。大学の支援制度を基礎としているが、大学の支援よりもきめ細やかであり、柔軟性がある。例えばベビーシッター利用料補助は全学では博士課程後期以上の学生に限っているが、ALicE の支援では学部学生から利用できるようになっている。また研究スキルアップ経費の支援も国際会議だけでなく、共同研究打ち合わせや調査研究などの旅費への利用も可能としている。さらにキャンパスの施設内に託児ルームを設置し(図2)、学会保育などに利用可能である。

図2 託児ルーム

 

女性研究者の見える化・工学魅力の発信についても取り組んでおり、『宮城の新聞』をWEBと紙媒体により女性研究者の活躍や工学系の取り組みを発信している(図3

http://shinbun.fan-miyagi.jp/feature/alice/)。

紙媒体6万部を発行し、仙台市立全中学校と高校16校の生徒全員に配布し、工学分野の魅力の発信を強化することで、工学に興味を持ち理系進学を目指す学生のすそ野拡大に取り組んでいる。

 

図3 宮城の新聞

 

また、ALicEの活動として毎年7月には学都「仙台・宮城」サイエンスデイに参加し、サイエンス・エンジェルと協力して小中学生向けの科学体験プログラムを実施している。さらに、オープンキャンパスでも工学系男女共同参画委員会と共同で女子学生のためのミニフォーラムを毎年開催している(図4)。

機械系の支援としては、女子学生交流会がある。これは、女子学生が少ないことから生じる孤立を防ぐために作られ、学部学生から博士課程後期学生による縦のつながりを重視している。活動は機械系の男女共同参画委員会とともに行っている。最近は新入生の入学歓迎会と、オープンキャンパスでの女子学生企画による学生生活や研究の紹介、卒業を祝う会を主に行っている(図5)。そのほかにも機械系の男女共同参画委員会は静養室の設置や、メーリングリストによる情報共有にも努めている。

 

図4 ALicE サイエンスデイのイベントの様子

 

図5 オープンキャンパスの様子
上は機械系の女子学生企画、
下は工学系の女子学生のためのミニフォーラムの講演

 

ロールモデルについて

先に紹介したサイエンス・エンジェルは、小中高生や保護者を対象に女子大学院生が科学イベントや出前授業などを行うことによって、ロールモデルが少ない問題を解決できると考えている。しかしながら、ステップアップを続けていくと、日本の国内では女性の進出や活躍が進んでいる分野は現在限られているため、自分のいる分野でのロールモデルを見つけることは困難になると考えられる。

私自身の経験であるが、工学部の講師になった時に、東北大学の男女共同参画委員会に委員として参加した。その会議に出たときに、文系や医学系の女性の教授たちが活発に発言し、会議を取り仕切っている様子を目の当たりにし、大きな衝撃を受けた。当時は工学部に女性教授はゼロであったし、私自身も自分の研究が楽しいし進めたいという、とても狭い視野しか持ち合わせていなかった。上司に「男女共同参画委員会に出席したら、たくさんの女性教授がいました!」と興奮しながら報告した記憶がある。また、その時から異分野の女性研究者の方々と交流をする機会が得られ、私にいろいろな刺激を与え続けてくれている。

おわりに

本稿では、東北大学の支援の紹介とロールモデルの体験について記述した。前述の工学系の託児ルームとは別に、東北大学では2018年4月に工学部のメインキャンパス内に大学で三つ目となる保育園が開設される。私自身も大学の保育園を利用し、支援も受けて研究を続けてきている。大学の支援は、つらいときには精神的支柱となり大変心強いものであった。このような支援があることは、支援を受ける当事者の活躍を励ますだけでなく、職場や家族など周囲の人たちにも有益に機能し、延いては組織全体の隆盛につながると考えられる。また、全学、工学系、機械系でもオープンキャンパスやフォーラムなどの催しへの参加によって、保護者を含む参加者からは女性が少ないことへの不安が減ったとの声が多数得られており、女性が伸び伸びと活躍している様子をより積極的に伝えていくことが重要である。

ロールモデルについては、機械系だけでなく工学系の女性にはロールモデルが身近に多くはいないだろうから、国内、国外、分野に関わらずつながりを持ち、ロールモデルを違うところに見つけることを薦めたい。そもそもになってしまうが、ロールモデルは女性である必要はないと考える。見本にしたいと思うことができれば、性別は特に関係ないだろうし、そうであればたくさんのロールモデルは身近に存在するであろう。結局のところ、性別や分野に関わらず、いいとこ取りをして、かっこいい、素敵だなと思えるモデルを自分で見つけ、自分の目指すものになって活躍して欲しい。


 

<フェロー>

田中 真美
◎東北大学 大学院医工学研究科 教授
◎専門:医工学、バイオメカトロニクス触覚・触感に関わる研究

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