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2018/1 Vol.121

【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)

前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。

バックナンバー

特集 新たな価値創造のために ~女性活躍と多様性の推進~

卒業生が学びや経験を在校生に還元する“ 水戸二高のSSH サイクル”

梶山 昌弘(茨城県立水戸第二高等学校)

はじめに

茨城県立水戸第二高等学校は、1900 年(明治33 年)に茨城県で初の高等女学校として設立され、平成29 年度で創立117 年目を迎えた。これまでに約38,000 人の卒業生を輩出した伝統校・進学校である。品位と教養のあるリーダーの育成を教育方針に、全日制普通科1 学年8 クラス320 名、合計960 名の女子のみが在籍する普通科単独校である。

2017 年の卒業生は、お茶の水女子大学や東北大学などの国公立大学に130 名以上進学をしている。特に、理系の進学が近年伸びてきている。これは、スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)事業が大きく関わっているためと考えられる。

SSH 事業

SSH 事業とは、文部科学省によって平成14 年度から理科・数学に重点を置いた取り組みを大学等との密接な連携の下で推進され、将来の国際的な科学技術系人材の育成や高大接続の在り方の検討に資する目的のために行われている。本校は、平成18 年度より5 年間、平成23 年度より5 年間、そして平成28 年度より新たに5 年間のSSH 指定を受け、以下の目標のもとで独自の学校設定科目等を導入して理数系教育の活性化を図り、生徒の個性と能力を伸ばす取り組みを実施している。

SSH の目標

科学技術を牽引できる女性としての発想力や問題解決力およびそれらの基盤となる興味・関心、知識・理解、科学的思考力等の育成には、「水戸二高SSHサイクル」や主体的・協働的な学習による「科学研究プログラム」とその基盤となる「科学教育プログラム」の展開が有効である(図1)。

「水戸二高SSH サイクル」とは、卒業生がそれまでの学びや経験を本校生に還元するサイクルである。一つは研究者・技術者としての卒業生が本校の課題研究等のSSH 活動に関わるサイクル、もう一つは文系も含めた生徒が直接、小・中学校へ出向き、実験指導をしたり、やがて小・中学校および高校の教員になり、自然科学に興味・関心を持つ児童・生徒を育て、その子たちが本校で学んで成長するサイクルである。女性の力は日本の大きな潜在力であり、科学技術系の女性の育成はとりわけ重要である。理数系卒業生の手助けを得ながらここに力を入れて取り組んでいる。

さまざまなプログラムの中で、①課題研究と②小・中学生支援の二つに絞って紹介をしたい。

 

図1 水戸二校 SSH3 期目サイクル

考察力とプレゼン力を鍛える課題研究

1 年生では準備段階として、夏に2 泊3 日で自然科学体験学習を行い、自然に対する興味・関心を高め、調査の手法やプレゼンテーションの方法を学ぶ。また、大学での実験研修や他校の課題研究発表会に参加し、研究の進め方やテーマ設定などの情報を集める。2 年生および3 年生では、本格的に課題研究が行われる。個人またはグループでテーマを決め、卒業生や教員の指導の下、予備実験や手法の検討、実験結果の妥当性、そして考察・課題とその解決策の検討など、一般的な「研究者」の取り組みを体験する。またその間、何回か学会等での発表の機会があり、専門家のアドバイスもいただく。

このような課題研究を通して、生徒たちに身についたと感じる力は二つあると思う。一つは「考察力」である。ある程度実験が進むと得られるdata。そのdata から何が言えるのか、どのような可能性があるのか、そしてそれらを実証するためにはどのような追加実験が必要なのか。そのような事柄を生徒同士でまたは担当教員も交えて議論する中で、生徒たちは明らかに変わっていく。現象をより深く見つめ直し、手法の一つ一つの意義を確認し、そこから出てきたdata を、じっくり見つめ、最初の一言が出る。すると、その後はどんどん、考えが出てきて、グループの別の生徒から違った視点からの考えも出てくると、さらに考察が膨らむ。そしてそれらを証明するための追加実験に話が及ぶ。決して「真理」とは言えない考察かもしれないが、そのような現場に一緒に立ち会えることに、私は喜びを感じている。

もう一つは、「プレゼン力」である。自分たちが2 年かけて研究した成果の発表なので、ややもすると生徒たちは「最初から全部を話しきりたい」と考えてしまいがちである。しかし、発表は自分たちの研究の「説明」ではなく、研究を「理解してもらう」ということだと指導している。2 年間の研究を、わずか7 分の口頭発表でどう「理解してもらう」のか、ポスター発表では5 分の審査にどう「理解してもらう」のか。始めは「説明」になってしまっていた生徒たちも、回を重ねるたびに抑揚やジェスチャーそして資料の工夫を通して「理解してもらう」プレゼン力が身についてくる。しかも、専門家に対してのプレゼンと、中学生に対してのプレゼンのしかたをしっかり使い分けできる力もつく。

これらの「力」はまさに、主体的・協働的な学びを活用した科学的思考力の育成の賜物と言えよう。

このような課題研究の成果の一例として、本校の数理科学同好会の研究論文「Rebirth of Dead Belousov-Zhabotinsky Oscillator」が2011 年にアメリカ化学会誌「The Journal of Physical Chemistry A」に掲載されたことは特筆に値する。また、2015 年12 月にはハワイで開催の「環太平洋国際化学会議PACIFICHEM2015」で高校生として初めてポスター発表を行った(図2)。

 

図2 「環太平洋国際化学会議PACIFICHEM2015」でのポスター発表(2015 年12 月)

SSH サイクルでつなぐ小・中学生支援

本校生が小学校や中学校に行き、理科の実験講習のインタープリターとして活動したり、「環境科学フォーラム」と題して、小・中学生を招き、「環境」という共通のテーマでポスター発表をし、グループワーク(図3)を異学年間で行ったりしている。小・中学生にとっては、一歩深めた実験を体験できたり、自分たちが研究した成果を発表できたりする機会になっているが、本校生への影響の方がはるかに大きい。
・小学生や中学生に、わかりやすく説明するにはどうしたら良いか、生徒たちは工夫する。
・説明する過程で、自分自身の知識が整理されていく感覚がわかる。
・説明する、教えることで、小・中学生から感謝される体験をする。

このような体験は、将来、教員を志望している本校生にとって、強いモチベーションになり、やがては彼女たちの教え子が、理科好きになり、本校に入学し、そして卒業後は研究者として後輩の課題研究を助言する。このようにSSH サイクルが循環することを願っている。

 

図3 環境科学フォーラムで小・中学生を招きグループワークを行う


 

 

梶山 昌弘
◎ 茨城県立水戸第二高等学校 教諭

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