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2018/1 Vol.121

【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)

前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。

バックナンバー

特集 新たな価値創造のために ~女性活躍と多様性の推進~

多様性は変化する社会へのそなえ

秋葉 敏克〔(株)東芝〕

社会変化と多様性

ボーダレス社会での多様性への取り組み

日本政府観光局の統計では、2017年9月時点で、訪日外客数は2017年の累計が2100万人を超え、日本国内でも外国人と接する機会が増えて国際化・ボーダレス化が進んでいる。また、SNS やIoT など情報も多様化し、データ社会も進化している。言い古された感があるが、少子高齢化社会の到来や終身雇用制の崩壊など、今後社会は大きく変化し、進化を続けていくと予想される。このような変化の大きい社会に対応するための備えとして、多様性を持った組織や、各人が多様性を許容する意識へ改革することが必要と考える。

多様性は、国籍、性別、年齢、宗教、価値観など、外見だけでなく、内面的な違いも含んでいる。いわゆるダイバーシティ・マネジメントは、1950年代、1960年代の米国公民運動が起点と言われている。同一賃金法(1963年)、市民権法(1964年)などが制定され、法令遵守のために企業は多様性のある人材の採用を始め、ダイバーシティ・マネジメントの考え方が浸透することになった。

日本では、1985年に男女雇用機会均等法が制定され、男女雇用差の是正に取り組むことになった。日本は、多人種、多文化、多宗教が存在する米国とは状況が違うため、雇用面で少数派となっていた女性への取り組みが先行することになったと思われる。本稿では、女性活躍推進法が2016年に施行され、女性の活躍がますます期待されていること、本誌がメカジョ- 女性活躍の特集であるので、女性活躍推進にフォーカスして、企業の取り組みなどについて述べ、多様性活用の重要性、その目的などを考えていく。

女性の活躍推進と組織の成果

成果につながるダイバーシティ経営

女性活躍推進法では、国や地方公共団体、民間事業主に対して、以下の項目の実施を求めている(1)
・女性の活躍に関する状況把握、改善事情の分析
・状況把握、分析を踏まえた「事業主行動計画」の策定、公表等(取組実施・目標達成は努力義務)
・女性の活躍に関する情報の公表(労働者が300人以下の民間事業主については努力義務)

また、経済産業省は、ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業を、「新・ダイバーシティ経営企業100選」(以下、100選と記す)として、表彰している(2)。経済産業省は、図1に示すようにダイバーシティ経営の成果としてプロダクトイノベーション、プロセスイノベーション、外的評価の向上、職場内の効果という観点で考えており、多様な人材の活用、能力を最大限発揮できる機会の提供を求めている。

100選の結果を見ると、経営理念でのダイバーシティ経営の明確化、人事評価、職場環境整備によ働きやすい環境づくり、多様な人材の活躍を価値創造につなげる人材育成など、各社が特色ある取り組みを行っている。また、2014年の100選を見ると、多くの企業が女性の活躍を推進する対策に取り組んでおり、各企業、組織が、女性の活躍が組織成果につながると考えていることがわかる。

日本機械学会では、女性技術者、研究者のネットワーク拡大のための組織(Ladies’ Association of JSME)があり、メカジョ未来フォーラムの開催などの活動を行っている。また、土木学会など、いろいろな分野の学会でも同様の活動がみられる。このような活動は、縁の下の力持ちで目立たないが、将来の女性の活躍や多様性活用には重要な役割を担う。

 

図1 ダイバーシティ経営の成果

職場環境と働き方の変化

ワークスタイルイノベーションで適材適所

私見ではあるが、男女雇用機会均等法が制定された1980年代~ 1990年代は、女性の場合、結婚後に退社する例が多かったと記憶している。その後、具体的な時期の特定は難しいが、結婚後に出産を機に退社するケースが増え、最近では、出産後も職場復帰して、そのまま活躍する女性が多くなっていると感じている。

これは、ワークスタイルイノベーションとしてワークライフバランスの適正化が議論されるなど、仕事一辺倒的な生活が見直されてきたこと、出産休暇、育児休暇などの制度の充実、フレックスタイム制、サテライトオフィスの導入など、仕事時間の融通性が増し、子育てや自己啓発など、仕事以外の活動に自由度ができ、働きやすい社会となってきていることに起因していると考える。

東芝グループでは、きらめキッズ横浜という社内保育園が運営されている。知人からは、子供の送迎や急な体調変化への対応などで、一般の保育園を利用するよりも子育ての負担が低減されていると聞いている。組織としても、そのような負荷の低減された状況で働いてもらう方が、しっかりとした成果が期待できる。

家電製品の研究開発を行っていた時に感じたことであるが、性能の数値的評価だけでなく、調理に対する女性の感覚、モノのとらえ方などは、男性の感覚とは違う側面を持ち、非常に参考になった。また、製品に対して熱心に取り組む姿などを見ると、適材適所、多様な人材が同じ製品に関わることの重要性、必要性を感じた。

これからのグローバル社会の組織活動に対するステークホルダーは、男性、女性、国籍の異なる人など、多様な構成となる。加えて、少子高齢化で人材確保が重要となるため、かつての日本企業が基本とした日本人、男性、正社員による同質的な構成の企業運営では変化に対応することができない。新しい価値を持った製品・サービスを創出するには、多様な人材が、適材適所で活躍することが必要不可欠となる。

多様性がロバストな組織を作る

社会変化に対する高感度な組織づくり

グローバルに事業を行い、海外の動向が利益に大きく依存する企業では、ダイバーシティの推進は企業戦略として重要なテーマとなっている。また、国や地方公共団体でも、少子高齢化対応など、労働力確保の面で、多様性のある人材の確保は重要である。特に、女性の活躍を推進することは、人材確保の面で、現実的な問題解決の一案となる。

前述したダイバーシティ経営企業100選のなかでは、活動の指針として、女性管理職比率を設定しているケースも多い。活動の評価指標として用いていることは、数値化の面で分かりやすい。注意しなければならないのは、多様性活用の目的は女性管理職比率を上げることではない。いかにその活動を組織の成果、利益につながる結果にするかを考えなければならない。近年のボーダレス社会では、さまざまな個性が尊重され、価値観も多様化していき、今までのような画一的な組織の人員構成ではニーズの先取りができない。企業、組織としては、新しいニーズにマッチしたサービス、製品を提供することで、成長することが可能であり、多様性に即応できない組織は衰退してしまう世の中になっている。その価値創出には、ワークライフバランスを保ちながら、各個人の成長、幸福感を満足させ、社会としても成長していく多様性を持った集団が必要である。その集団は、共通のビジョンをもって、構成する人材の多様性をお互いに認めて、活動していくことが必要である(図2)。

多様性を持った組織は、新しい価値創出ができ、社会変化に対して、ロバストな体制となる。今後は、このような組織づくりが必要不可欠となる。

図2 多様性と組織の発展

 

参考文献
(1) 女性活躍推進法特集ページ, 厚生労働省.

   http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html(参照日2017 年11 月1 日)
(2) 新・ダイバーシティ経営企業100 選, 経済産業省. 

   http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/(参照日2017 年11 月1 日)


 

<正員>

秋葉 敏克
◎(株)東芝 研究開発センター機械・システムラボラトリ―
◎専門:メカトロニクス、アクチュエータ

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