日本機械学会サイト

目次に戻る

2018/1 Vol.121

【表紙の絵】
「心ウキウキゆかいな
メロディーメーカー」
吉川 知里 さん(当時9 歳)

前にテレビで見た“日本の町工場で作られたネジや部品が世界で使われている”という話をきっかけに考えていた機械です。
ドアの開閉の力で歯車が動き、その時その気分にあった音楽が流れてきます。
朝は1 日を元気に過ごせるようなやる気の出る音楽、夜は1 日の疲れをとってくれる優しい音楽、
悲しいことがあった時は、なぐさめてくれます。
荷物やお手紙が届くとお知らせチャイムが流れます。

バックナンバー

機械屋の数学

第1回 ばね・質点系の連成振動から波動方程式へ 行列の固有値問題から演算子の固有値問題へ Part 1

高木 周

1.はじめに

今回から11回にわたり,「機械屋の数学」と題し,機械工学の基礎となる数学に関して,特集を担当することとなった。とは言え,機械工学の基礎となる数学に関しては,本学会から出版されている文献(1)をはじめ,すでに多くの教科書がある。そこで,本特集では,機械工学で扱う基本的な問題を通して,機械工学関連の数学の教科書では従来余り触れられていなかったが,大切と考える内容について説明していきたい。

例えば,次のような線形の1次元波動方程式を考える。

\[
\frac{{\partial ^2 u}}{{\partial t^2 }} = c^2 \frac{{\partial ^2 u}}{{\partial x^2 }}
\]

この式は,速さcで伝播する波の運動を記述する方程式である。この問題を与えられた初期条件,境界条件のもと解く場合の方法として,変数分離法がある。変数分離法では,

\[
u \equiv f(t)\,g(x)
\]

と置き,

\( \frac{1}{c^2} \frac{{\rm d}^2 f(t)}{{\rm d} t^2} {\Biggm/} f(t) = \frac{{\rm d}^2 g(x)}{{\rm d} x^2} {\Biggm/} g(x) = \lambda \)     (一定)

として,問題を解きはじめる。変数分離法は,多次元の場合にも適用することができ,またラプラス方程式(\(
\nabla ^2 u = 0
\))や熱伝導方程式・拡散方程式(\(
\frac{{\partial u}}{{\partial t}} = \alpha \nabla ^2 u
\))に対しても,境界条件が適切に与えられる場合に有効な手法となる。

さて,この変数分離法がうまく使えるのは,どのような場合か。教科書や問題集では,特に説明なく,解法のテクニックとして変数分離法が説明され,「変数分離法で解くと,…」から始まることが多い。実はこの方法がうまく使えているのは,対象となる問題が微分演算子の固有値問題として,適切に定式化できるからである。本連載では,このような問題をはじめ,「目から鱗」となるような話題を提供できればと考えている。

 

2.ばね・質点系の連成振動

微分演算子の固有値問題について説明する前に,行列の固有値問題として,ばね・質点系の連成振動の説明から始める。

まず始めに,図1に示すような,両端が壁に固定され,三つのばねで繋がれた二つの質点の運動を考える。ばね定数はすべてk,質点の重さはともにmとする。このときの質点の運動を求める。

図1 二つの質点の連成振動

 

つり合いの位置からの二つの質点の変位を,それぞれ,u1 , u2とする。このとき,それぞれの質点に対する運動方程式は次式で与えられる。

\(
\left\{ {\begin{array}{*{20}c}
{m\ddot u_1 = – ku_1 – k(u_1 – u_2 )} \\
{m\ddot u_2 = – ku_2 – k(u_2 – u_1 )} \\
\end{array}} \right.
\)      (1)

ここで,\(\ddot u \equiv \frac{{{\rm{d}}^2 u}}{{{\rm{d}}t^2 }}
\)である。

今,  \(
\omega _0^2 \equiv \frac{k}{m}
\)とすると,式(1)は以下のように表せる。

\(
\left( {\begin{array}{*{20}c}
{\ddot u_1 } \\
{\ddot u_2 } \\
\end{array}} \right) = \omega _0^2 \left( {\begin{array}{*{20}c}
{ – 2} & 1 \\
1 & { – 2} \\
\end{array}} \right)\left( {\begin{array}{*{20}c}
{u_1 } \\
{u_2 } \\
\end{array}} \right)
\)      (2)

さらに,\(
{\bf{u}} \equiv \left( {\begin{array}{*{20}c}
{u_1 } \\
{u{}_2} \\
\end{array}} \right)
\),  \(
{\bf{A}} \equiv \left( {\begin{array}{*{20}c}
{ – 2} & 1 \\
1 & { – 2} \\
\end{array}} \right)
\)とすると、式(2)は

\(
{\bf{\ddot u}} = \omega _0^2 {\bf{Au}}
\)     (3)

と表せる。この問題を,行列\(
{\bf{A}}
\)の固有値問題として解くと,以下のように,質点の運動を求めることができる。

行列\(
{\bf{A}}
\) の固有値を\(
\lambda _1 ,\;\lambda _2
\),固有ベクトルを\(
{\bf{v}}_1 \,,\;{\bf{v}}_2
\)とすると,

\(
{\bf{A}}\,{\bf{v}}_1 = \lambda _1 \,{\bf{v}}_1
\), \(
{\bf{A}}\,{\bf{v}}_2 = \lambda _2 \,{\bf{v}}_2
\)     (4)

固有方程式

\[
\det \left( {\lambda {\bf{E}} – {\bf{A}}} \right) = \left| {\begin{array}{*{20}c}
{\lambda + 2} & { – 1} \\
{ – 1} & {\lambda + 2} \\
\end{array}} \right| = (\lambda + 1)(\lambda + 3) = 0
\]

より,固有値\(
\lambda = – 1,\,\, – 3
\) を得る。

\(
\lambda _1 = – 1
\), \(
\lambda _2 = – 3
\)とし,固有ベクトル\(
{\bf{v}}_1 \,,\;{\bf{v}}_2
\)として大きさが1になるものを選ぶと,

\(
\lambda _1 = – 1
\)に対して,\(
{\bf{v}}_1 = \frac{1}{{\sqrt 2 }}\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
1 \\
\end{array}} \right)
\)     (5)

\(
\lambda _2 = – 3
\)に対して,\(
{\bf{v}}_2 = \frac{1}{{\sqrt 2 }}\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
{ – 1} \\
\end{array}} \right)
\)     (6)

となる。さて,この固有ベクトルを基底として,ベクトル\(
{\bf{u}}
\)を,次のように表記する。

\(
{\bf{u}} = a_1 (t)\,\,{\bf{v}}_1 + a_2 (t)\,{\bf{v}}_2
\)     (7)

\(
a_1 (t)\,,\,a_2 (t)\,
\)は,基底\(
{\bf{v}}_1 \,,\;{\bf{v}}_2
\)で空間を張ったときの\(
{\bf{u}}(t)
\)の成分とみることができる。式(7) を式(3)に代入すると,

\(
\ddot a_1 \,{\bf{v}}_1 + \ddot a_2 \,{\bf{v}}_2 = \omega _0^2 \left\{ {a_1 \,{\bf{A}}\,{\bf{v}}_1 + a_2 {\bf{A}}\,{\bf{v}}_2 } \right\}
\)     (8)

このままでは,両辺を比較することができないが,ここで,式(4)の固有ベクトルの概念を導入することが,重要な意味を持つ。式(4)の関係を用いると,式(8)は次式となる。

\(
\ddot a_1 \,{\bf{v}}_1 + \ddot a_2 \,{\bf{v}}_2 = \omega _0^2 \left\{ {a_1 \,\lambda _1 \,{\bf{v}}_1 + a_2 \;\lambda _2 \,{\bf{v}}_2 } \right\}
\)     (9)

この形になると,固有ベクトル\(
{\bf{v}}_1 \,,\;{\bf{v}}_2
\)の1次独立性を利用することができ,

\(
\ddot a_1 – \;\omega _0^2 \lambda _1 \,a_1 = 0
\),  \(
\ddot a_2 – \,\omega _0^2 \lambda _2 \,a_2 = 0
\)

すなわち,

\(
\left\{ {\;\begin{array}{*{20}c}
{a_1 (t)\; = \beta _1 \cos \omega _0 \sqrt { – \lambda _{\;1} } \,t + \gamma _1 \sin \omega _0 \sqrt { – \lambda _{\;1} } \,t\,\,} \\
{a_2 (t)\; = \beta _2 \cos \omega _0 \sqrt { – \lambda _{\;2} } \,t + \gamma _2 \sin \omega _0 \sqrt { – \lambda _{\;2} } \,t\,\,} \\
\end{array}} \right.
\)     (10)

を得る。\(
{\bf{u}} = a_1 (t)\,\,{\bf{v}}_1 + a_2 (t)\,{\bf{v}}_2
\) であるので,

\(
{\bf{u}} = \left( {\begin{array}{*{20}c}
{u_1 } \\
{u_2 } \\
\end{array}} \right) = \left( {\beta _1 \cos \sqrt {\frac{k}{m}} \;t + \gamma _1 \sin \sqrt {\frac{k}{m}} \;t} \right)\frac{1}{{\sqrt 2 }}\,\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
1 \\
\end{array}} \right)
\)

\(
+ \left( {\beta _2 \cos \sqrt {\frac{{3k}}{m}} \;t + \gamma _2 \sin \sqrt {\frac{{3k}}{m}} \;t} \right)\,\frac{1}{{\sqrt 2 }}\,\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
{ – 1} \\
\end{array}} \right)
\)     (11)

を得る。係数の\(
\beta _1 ,\beta _2 ,\gamma _1 ,\gamma _2
\)は,各質点の位置と速度に関する初期条件より決定される。

次に,この式の各項のもつ物理的意味を考えてみる。右辺第1項(一行目)は,角振動数\(
\omega _0 (\, = \sqrt {k/m} \;)
\)で固有ベクトル\(
{\bf{v}}_1
\)の方向,すなわち\(
\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
1 \\
\end{array}} \right)
\)方向へ,右辺第2項(2行目)は,角振動数\(
\sqrt 3 \,\omega _0 (\, = \sqrt {3k/m}\;)
\)で固有ベクトル\(
{\bf{v}}_2
\)の方向,すなわち\(
\left( {\begin{array}{*{20}c}
1 \\
{ – 1} \\
\end{array}} \right)
\)方向へ振動している運動を表している。ここで,固有ベクトル\(
{\bf{v}}_1 \,,\;{\bf{v}}_2
\)の方向の運動とは,図2(a),(b)に示すように,それぞれ,質点1と質点2が同位相で同じ方向に運動,質点1と質点2が位相πずれて全く逆の方向に運動する状態に対応している。

同位相で振動する場合には,真ん中のばねは伸び縮みしないため,それぞれの質点は,ばね定数kの単振動,すなわち角振動数\(
\sqrt {k/m}
\)の単振動をすると考えられる。一方,位相がπずれている場合には,質点は,両質点の中間の点を中心として対称な運動をする。すなわち,左側の質点1は,一番左のばねからばね定数kで決まる力を受け,中央のばねからは,実質的にはばねが半分の長さになっているため,ばね定数2kで与えられる力を受ける。ゆえに,質点の両側からの力を合計すると,ばね定数3kで与えられる運動,すなわち,角振動数\(
\sqrt {3k/m}
\)の振動をすることになる。

以上,実はこの問題の場合は,二つの質点に対し,二つの異なる振動モードを物理的考察から見つけることができるので,行列\(
{\bf{A}}
\)の固有値問題として問題を解かなくても,直接,式(11)を書き下すことが可能である。なお,二つの固有ベクトル\(
{\bf{v}}_1
\)と\(
{\bf{v}}_2
\)は,直交しているがこれは重要な点である。

第2回では,質点の数を増やして一般化し,N個の場合を説明するが,この場合には,式(3)の形で表記した行列\(
{\bf{A}}
\)は, \(
N \times N
\)の行列となり,この行列\(
{\bf{A}}
\)のN個の固有ベクトルは,すべて直交する。さらに,第3回は,粒子数Nが無限個となる場合の極限を考え,離散的なばね・質点系の連成振動の運動方程式が,連続系への極限として,偏微分方程式である波動方程式に置き換わるのを示す。すなわち,行列\(
{\bf{A}}
\)が微分演算子Aに置き換わり,演算子Aの固有値問題として,異なる固有値に属する固有関数が直交するのを見ていく。

図2 固有ベクトルと振動モードの関係

 

参考文献

(1) 日本機械学会, (JSMEテキストシリーズ) 機械工学のための数学 , (2013).


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授

◎専門:流体工学、計算力学、生体力学


 

キーワード: